serum 2

もはやワークステーションの域!
SERUM 2で、サウンドメイク完結

長年にわたり絶大な人気を誇るソフト・シンセXFER RECORDS Serumがバージョン・アップを果たし、Serum 2として登場した。その中身を見てみると、ソフト・シンセの枠を飛び出し、ワークステーションと呼びたくなるほどの強力な進化を遂げていることが判明。そこで本稿では、熱心なSerumユーザーでもあるHylenを講師に迎え、新機能に迫る特集をお届けする。特集後半では、Serum 2があれば今すぐ試せるサウンド・メイクのTipsを紹介。試聴音源に加え、HylenによるSerumプリセットもダウンロードできるようになっているので、ぜひSerum 2を手元に用意して試してみてほしい。いざ、Serum 2の沼へ。

講師(文):Hylen

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【Hylenプロフィール】コンポーザー/DJ/GOC Guitarsオフィシャル・ギタリスト。ダンス・ミュージックの制作、ベース・ミュージックに定評があり、『Hydrangea』ではiTunesエレクトロニック・チャート1位を獲得。楽曲提供も行い、『HATSUNE MIKU Digital Stars 2023』テーマ・ソングなどを担当する。

SERUM 2の驚異的な進化

 XFER RECORDS Serum 2は、2025年3月18日に正式リリースされました。2014年9月のリリースから多くのEDMやポップスのプロデューサーに愛されてきたこのソフトウェア・シンセサイザーが、約10年ぶりに大幅な機能追加とユーザー・インターフェースの改良を施し、現在世間の注目を集めています。

 旧バージョンのSerumのプリセットも互換性が保たれ、Serumを事前にインストールしてある場合、自動的にリンクされるためそのまま使用可能です。

 余談ですが、XFER RECORDS創設者のスティーヴ・デューダは、実はナイン・インチ・ネイルズでエンジニアを務めた経験があるほか、デッドマウスとのユニット“BSOD”としても活動しています。Serumもデッドマウスとの共同開発によって生まれたものでした。

 それでは、ここからは実際にどのような機能が追加されたのかを紹介します。数多くの画期的な機能が追加されましたが、その中でも特に革新的なアップデートを幾つかピックアップします。 

シンセサイズ・セクション

シンセサイズ・セクション

枠線と見出しの色が対応しています

①オシレーター数の追加(2基→3基)

 従来のSerumではオシレーター数が2基(OSC A/B)でしたが、新たにOSC Cが追加され、3基のオシレーターを使用できるようになりました。これによりSerum 2単体でさまざまな音をレイヤーでき、よりワイド・レンジなサウンドを作りやすくなっています。  例えば、1基のオシレーターで作成したリード音に対して、残り2基のオシレーターを使用し、1オクターブ上下のものをレイヤーすることで、3オクターブを使用した音を作ることができます(実際のサウンド・デザインに関しては後述します)。

②オシレーター・モードの追加(Wavetable、MultiSample、Sample、Granular、Spectral)

 先代のSerumではウェーブテーブル合成がシステムの根幹でしたが、オシレーターが5種類のモードから選択可能に。これにより、既存のサンプルを加工してウェーブテーブルにレイヤーする音作りや、マルチサンプルを使用した生楽器、PCM音源とウェーブテーブルのハイブリッド・サウンド・デザインなど、ウェーブテーブルに依存しない音作りが可能になりました。

③ワープ・モードの数/種類の追加(1つ→2つ)

 ワープ・モードも同様に2つに増えたほか、新たにFilter、Distortion、PD(位相ひずみ)モードが追加されました。エフェクト部分を使わずとも、オシレーター単体にフィルターをかけたり、波形そのものをひずませることが可能です。

4 フィルター数/種類の追加(1つ→2つ)

 フィルターも2つに増えたほか、種類も大幅に増加しました。これらはミックスして使用できるため、例えばCombフィルターでカラーを付けながら、LP/HPでサウンドに動きを付けることも可能です。

エフェクト・セクション

エフェクト・セクション

枠線と見出しの色が対応しています

①エフェクト使用数制限の撤廃、並列利用が可能に

 旧バージョンのSerumでは同じエフェクトを2つ以上かけることができませんでしたが、今回のアップデートによりモジュール式へ変更されました。

 これにより、エフェクト使用数の制限も撤廃されています。例えば、EQ→ディストーション→EQ→フィルター→EQ→ディストーション→ディレイ→リバーブ→ユーティリティのような複雑なチェインも可能です。そして、これらのFXをまとめたものもプリセットとして保存できるようになりました。これにより、よく使うエフェクト・ラックをプリセットとしてまとめておけるほか、プリセットに対して追加でエフェクトをかけることができます。

②バス・チャンネルの追加

 こちらも大きなアップデートです。新たにバス・チャンネルが追加され、オシレーターからバス・チャンネルへセンドできるようになりました。Serum 2の中でセンド&リターン的な使い方ができるようになったわけです。

③新エフェクトの追加(Bode、Convolve、Utility、Splitter)

 Serum 2では、新たなエフェクトとしてBode(フリーケンシー・シフター)、Convolve(コンボリューション・リバーブ、IRローダー)、Utility、Splitterが追加されました。

 Bodeは、ABLETON Liveユーザーには“Shifter”の名称でおなじみのデバイスかと思います。Frequency(周波数)を動かすことで、ダブステップのようなアグレッシブなサウンド・デザインをする場合に最適です。

 ConvolveはIR(インパルス・レスポンス)を用いたエフェクトです。基本的にはリバーブをよりクリエイティブなものにするために使用するものですが、サウンド・デザインにもうってつけのエフェクトです。

 私のお気に入りはファクトリー・プリセットの中にある“Weird”セクションのIR。鉄をたたいた音や水が落ちる音をリバーブとして使用できるというのは、音に属性を与えるようでワクワクしませんか?

 Utilityはその名の通り便利ツールです。シンセサイザーではあまり使わないかもしれませんが、位相反転、ベースのモノラル化、ステレオ・イメージャーなど、Serum 2内で最終処理まで行いやすくなりました。

 Splitterはエフェクトというよりエフェクト・バスの機能ですが、シグナルを低域/中域/高域、もしくはミッド/サイドに分けてエフェクトをかけることができます。この機能は本当に革命的です。

 例えば、ステレオ・イメージャーで音を広げたいが、ベース部分はモノラルにしておきたい場合、従来は別のエフェクトでマルチバンドでのステレオ・イメージャーが必要でしたが、Splitterを使用することで、高域のみにUtilityやHyper/Dimensionをかけることで解決します。

ファクトリー・プリセット

 旧バージョンのSerumのファクトリー・プリセットでは、スティーヴ・デューダをはじめとしたシンセサイザーを開発しているアーティストによるプリセットが多かったため、トランスやエレクトロのサウンドが中心でした。しかし、Serum 2のプリセットは、より多様なアーティストによって作成されています。

 YouTubeでもおなじみのSynthHacker、EDMアーティストKSHMRとの共作でも有名な7 Skies、大手デベロッパーのSplice、IDM界のサウンド・デザインで圧倒的な存在感を誇るMr. Bill、Skopeなど、多彩な顔ぶれとなっています。

 また、新搭載されたCLIP機能により、内蔵ピアノロールでMIDIノートを打ち込み、MIDIクリップとして保存できるようになりました。ファクトリー・プリセットにはCLIPも記録されており、そのプリセットを実際にどのようなフレーズで鳴らすとかっこよくなるかが分かりやすいので、そちらとセットで鳴らしていくのがお勧めです。

 そのような中でも“そのまま使っても便利なプリセット”2つをピックアップしてデモ音源を用意しました。このデモはCLIP内に入っているシーケンスをそのまま鳴らして書き出しているだけなので、Serum 2で開けば、全く同じサウンドを鳴らすことができます。

①KIT – 808 Basic Kit

KIT – 808 Basic Kit

 Drumkit内にあるプリセットです。ROLAND TR-808系サンプルがマルチサンプルとして読み込まれており、ドラム・ループも組めます。ドラムのエフェクト処理もSerum 2内で行えてとても便利ですね。

②GTR – Intimate Guitar Pluck

gtr_intimate_guitar

 ギターのセクションにあるプリセット。ギターのメロディ&伴奏とエフェクトがSerum 2一台で鳴っています。もはやシンセサイザーの域を超えていますね。

Column:”プリセットまま使い”は実際、アリなの!?

 DTMに関する相談を受ける際によく聞かれるのが“プリセットばかり使ってしまうのですが、1から音作りを覚えたほうがいいのでしょうか?”という質問です。
 こちらの答えとして、私は“必要に迫られなければ、絶対に覚えなければいけないということはない”と考えます。
 シンセサイザーの楽しみは人それぞれです。曲を作ることよりもシンセサイザーのノブを触っていたり、サウンド・デザインが好きな人もいれば、音作りよりも、歌詞やメロディ、演出に時間を充てたい人もいると思います。プリセットを使おうが、良い曲であれば気にすることはありません。
 ですが、知識があった場合、サウンド・デザインをするかどうかの取捨選択ができるので、サウンド・デザインはできて損することはないのかな?という考えにも同感です。
 私自身は、曲を作る途中にSerum 2を触りはじめてしまうと、細かいところまで追い込みすぎてしまって極端に曲を作るスピードが落ちてしまうので、サウンド・デザインと曲作りの時間は分けることが多いです。 

 

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