NHK連続テレビ小説『あんぱん』の第75話から戸田恵子が本格登場している。
【画像】「本家アンパンマンだ!」とSNSで反響…『あんぱん』で戸田恵子が演じる代議士・薪鉄子
本作は、国民的アニメ『それいけ!アンパンマン』(以下、『アンパンマン』)を生み出したやなせたかしとその妻、小松暢がモデルの物語。戸田は、『アンパンマン』でアンパンマン役の声優を務めているだけに、SNSでは「本家登場」「夢の共演」と盛り上がりを見せている。
本作には、これまでチーズ役などの山寺宏一やしょくぱんまん役の島本須美、ばいきんまん役の中尾隆聖と、『アンパンマン』ややなせと縁の深い声優陣が登場しており、戸田は視聴者待望の出演となった。
戸田恵子 ©時事通信社
『あんぱん』で“ハチキン”ぶりを見せた戸田恵子
戸田が演じているのは、東京で「ガード下の女王」と呼ばれている高知出身の代議士・薪鉄子。「弱い立場の者に手を差し伸べる」という強い信念を持っており、のぶ(今田美桜)からガード下にいるのはなぜかと問われ、「一番困っちゅう人らあの生の声を聞くためや」と答えている。信念と行動が合致しているパワフルさがわかる、薪の人となりを表す言葉だ。
さらに、薪やのぶが生まれた高知では男勝りな性格の女性のことを「ハチキン」と言い、のぶも幼い頃、「ハチキンおのぶ」と呼ばれていた。薪はのぶたちのインタビューに「戦後の日本はすごいスピードで変化しゆうがや。あてら政治家はそれよりはよう進まんといかん」と答え、のぶ以上のハチキンぶりを見せている。
そんな彼女が問題視しているのは国民の飢餓問題。特に子どもたちのことを心配しており、戦中、戦後直後には教師をしていたのぶにとって、薪の思いには共感できるところがあったのではないだろうか。
言い淀みなくスラスラ早口で受け答えする薪の声には、“アンパンマン感”がない。『ラヂオの時間』をはじめとする三谷幸喜作品や、ドラマ『ショムニ』シリーズ(フジテレビ系)で活躍してきた戸田の女優、そして声優としての経験とスキルの高さが、こういった細部からも感じられる。
やなせたかしから“指名”されたアンパンマン役
名古屋で生まれ育った戸田は、子役や歌手、マルチタレントとして活動をする中でラジオDJをしていた野沢那智から声をかけられ、野沢が主宰していた「劇団薔薇座」に研究生として入団。そこはミュージカルがメインの劇団で、研究生はダンス、声楽、お芝居などのレッスンがあり、戸田は「セリフ回しから、目線、顔の向き、足を何歩踏み出すかまで、演劇の基礎をしっかり叩き込まれた」と語っている(※1)。
また、当時の劇団員は生活のためにアルバイトをしており、戸田は野沢から「どうせなら同じようにしゃべる仕事で稼げたらいいじゃないか」と声優の仕事を紹介してもらったことから声優業をスタートさせた(※1)。
『機動戦士ガンダム』のマチルダ役などを務めた戸田だが、実は、『アンパンマン』のオーディションは受けておらず、数あるデモテープを聞いて原作者のやなせが戸田をアンパンマン役として選んだという。
当時の戸田は、小さな子ども向けのキャラクターを演じるのは初めてで、かつ、原作が絵本だったことから各家庭ごとに声のイメージが異なると考え、アンパンマンをどのように演じるべきか戸惑ったそうだ。
そんな戸田にやなせは「アンパンマンは、世界一カッコ悪いヒーローだと思ってください」と語り、顔をちぎって、それをみんなに食べてもらうことで、自分の心が温かくなる一方で、顔をちぎっているから自分の体力としてはどんどん衰えていくアンパンマンの姿を「どんどんダメになっていく、カッコ悪いヒーローなんだ」と表現したという(※2)。
そこから“やなせイズム”を感じとった戸田は、カッコ良さよりも優しさを感じられる、現在のアンパンマン像を作り上げていった。
やなせたかしの死後には「もうやれない」
やなせは90歳を越えた2011年の春に視界がぼやけることを理由に漫画家引退を考え、最後の大舞台として生前葬まで企画していたが、その直後に東日本大震災が発生。アンパンマンが被災者の心の支えになっていることが次々と耳に届き、やなせは引退を撤回した。
この頃からそれまで以上にやなせと密に交流するようになった戸田は、やなせが亡くなる半年前にも、2人揃ってアンパンマンのイベントに登壇していた。
「やれることがあるなら惜しみなくやる」というやなせの姿を間近で見てきた戸田は、その後、やなせが亡くなると、大きな喪失感に見舞われ、「もう(アンパンマンを)やれない」、「やりたくない」と駄々をこねるような気持ちにまでなったと語る(※2)。やなせと戸田との特別な繋がりが感じられるエピソードだ。
戸田は『あんぱん』の放送前に、スタッフと脚本を務める中園ミホから、やなせと妻の暢について取材を受け、「中園さんの台本を読んだときに、弱い立場の人たちに手を差し伸べる薪鉄子とアンパンマンが、なんだか重なって見えた」と、『あんぱん』の中に“やなせイズム”を感じたことを明かしている(※3)。
アンパンマンの“声”を長年務めてきた戸田が本作に出演するということは、単なるファンサービスだけでなく、やなせのメッセージを次世代へ継承する、より深い意味合いを持っているのだ。
『あんぱん』でも欠かせない“重要人物”に
舞台やドラマ、映画、そして声優とあらゆるフィールドで活躍している戸田だが、普段はそれぞれが影響を及ぼしているという感覚はなく、きれいに細分化されていて自然と“ギアチェンジ”できるのだという(※2)。
そんな中で、モデルの一人であるやなせと直接交流があり、その人となりと“やなせイズム”を深く理解し、今も『アンパンマン』という作品の中に身をおく戸田にとって、『あんぱん』はめったにない“融合作品”といえるのかもしれない。
戸田が演じる薪は、主人公・のぶの人生に大きな影響を与えていく人物と言われている。薪は、のぶが速記を使いこなしたり、当時には珍しいカメラを持っていたりしたこと、そしてこれから何をしたいかを迷いながらも考え、行動している姿に「これぞ」というものを感じとったようだ。
これからふたりは互いにいい影響を与え合っていくのかもしれない。薪とのぶのこれからの関係性と“ハチキン”な行動に注目していきたい。
参考
※1 https://www.asahi.com/ads/start/articles/00392/
※2 https://press.moviewalker.jp/news/article/1144595/
※3 https://www.nhk.jp/p/anpan/ts/M9R26K3JZ3/blog/bl/pAVY30dQeR/bp/p57gxDVx15/
(久保田 ひかる)
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