今年、春夏秋冬に楽曲をリリースすることを発表しているAile The Shotaが、夏ソングとして「向日葵花火」を完成させた。タッグを組んだのは、☆Taku Takahashi(m-flo)。Aile The Shotaのルーツにある「平成J-POP」を昇華したその楽曲は、キマグレンやTUBEを筆頭に、これまでJ-POP史に「夏曲」を刻んできたアーティストたちの系譜を感じさせる。
同じく平成テイストを感じさせるミュージックビデオには、Netflixの恋愛リアリティシリーズ『オフライン ラブ』に登場した俳優/モデルのYUDAIこと島村雄大が出演。Aile The ShotaとYUDAIはもともと友人であり、この曲を聴いたYUDAIが涙を流したことが、出演オファーのきっかけだったという。
「向日葵花火」が、楽曲もミュージックビデオも含め、Aile The Shota自身が「満足度の高い作品に仕上がった」と言い切れる理由を語り明かしてくれた。そして、その話をする中では「J-POPとは何か」という大切なテーマを経由することになった。
―前回の取材が東京ガーデンシアターでのワンマンライブ『Aile The Shota Oneman Live ”REAL POP”』の3日後で、そのとき「明後日に新曲のプリプロダクションがある」ということを話してくれていたんですよね。
Aile The Shota:「やべえ」みたいに言ってた時期だ! 今回も一緒です、秋に出す次の曲のプリプロが明後日ですもん(笑)。「向日葵花火」は、めっちゃ気に入ってます。歌詞、メロディ、歌い方、声のバリエーション、あと曲の展開含めて、自分がやりたいJ-POPにどんどん近づけている感じがします。「1番A→B→サビ→2番A→B→サビ→Dメロ→転調サビ」という展開は俺が聴いてきたJ-POPの定石で、やっとそれができました。5分ありますし。
―それ、思いました。
今は3分台とか3分もない曲も多いのに、この曲はちょうど5分尺で。
Aile The Shota:この時代に5分のJ-POPを出すのはトライですけど、僕が聴いてきたJ-POPは5分だったので。秋の曲はしっかりと意味のある短さだったりするんですけど、「向日葵花火」は、この曲が5分を求めているから5分にしたという感じですね。
―前回の取材のときは「夏の音について歌おうかな」とチラッと話されていましたけど、できあがったものを聴くと、きっと紆余曲折があったんだろうなと思いました。どんな流れがあって「向日葵花火」ができあがったんですか?
Aile The Shota:トラック自体は「踊りませんか?」と同時期なので、1年半とか2年前くらいにはありました。去年のツアーで北海道に行ったとき(2024年7月)、ひとりで小樽の水族館に行ったんですけど、そこに向かうバスでこのインストを聴いていたのをめっちゃ覚えてます。「踊りませんか?」と同じように「J-POPの海に潜って、いいメロディを出すまで粘り続けよう」みたいな気持ちでやったセッションで出したメロディだったから、一度は納得していたんですけど、いざ「あのトラックを掘り起こしてやろう」ってなったときに、もう1個上ある気がしてまた悩みだして。やっぱりメロディに超こだわるようになりましたね。途中で「ギターがほしい」「ギターを入れた状態でメロディを考えたいかも」ってなって、SKY-HIバンド(THE SUPER FLYERS)の田中”TAK”拓也さんに次のセッションに来てもらって。歌詞も迷いました。今回、初めて「歌詞が書けない」っていう理由でレコーディングをリスケしたんですよ。あとは、☆Takuさんって、いわゆるリミックスみたいな作り方をされる方で、レコーディングしたあとに曲がめっちゃ変わるんです。
音数が少ない状態のトラックでメロディを作って、そのメロディからインスピレーションを受けてビートを作られるんですけど、☆Takuさんが完成させたアレンジがよりサンバになっていて。僕の中で「今っぽい」というのは「踊れる」だと思っていて、「踊れるポップス」であることをすごく大事にしているんですけど、ダンスミュージックすぎると大衆には届きにくかったりもするから、そのバランスも含めて音の一個一個にめっちゃこだわりました。現状のポップスとしては最高到達地点にできたかなと思います。
―今の話を色々つっこんで深掘りたいんですけど、まずメロディに関して聞くと、とことん悩んだうえで、結果的にどういう手応えを感じられるものを書けたと思っていますか。
Aile The Shota:頭サビなので、とにかくグッとキャッチする、プラス、ブルーノートを使う。☆Takuさんには「カラオケで歌えるか否かの難易度」とか、色々な視点もあったので、「こうなんじゃない?」「いや、俺はこう思うんですけど」みたいなセッションをしながら作っていった感じでしたね。
―カラオケで歌えるか否かというラインについては、どんなことを考えたんですか?
Aile The Shota:言葉数かな。自分はリリックを重視する傾向があるので、言葉数とリズムが変則的になったりするところを、ちょっと言葉数を減らす意識をしたり。あとは裏声の使い方で、キャッチーにファルセットへ行く部分を考えながらやりました。
―歌詞については、これができあがるまでにどういう迷いがあったんですか?
Aile The Shota:最初は「さよならシティライト」みたいに、自分ではない目線で書こうとしたんですけど、ずっと書けなくて、とことん自分目線に変えました。この曲の主人公は「一番近い距離の親友に恋心を抱く男の子」ですけど、最初は主人公が「好きな男の子がいる女の子」でしたからね。でもそれだと届かない部分があると思って、自分色に変えたんです。
等身大じゃないと納得できなくて。
―1番が男の子目線、2番が女の子目線、というふうにも捉えられる歌詞だなと思ってました。
Aile The Shota:”いいかな”とか、最初に書いていたテンションが若干残っているなと思います。みんなが知っている言葉だけど、並び替えることによって詩的になるみたいな、僕のアイデンティティ的な書き方が自然とできたなと思います。☆Takuさんも色々アドバイスをくれました。たとえば、最初はサビがもうちょっと情景っぽくて、”消えないで”とか”ならないでよ”みたいな心の叫びは全然なかったんです。自分の中で「これだ」と思える歌詞を要所要所で書けたことが嬉しいですね。僕は”「なんでも話せるよ」の代償に/「好きだよ」が言えなくなったんだ”が一番好きなんですけど。これはちょっと前からメモ帳に溜めていたフレーズで。こういう経験をしといてよかったなあって(笑)。
―はははは(笑)。
Aile The Shota:自分語りの曲って、共感性に結びつくことは少ないのかなと思いつつ、恋愛となると、ちょっと視点を変えるだけでみんなのものになる感があるというか。
―共感性の高いポップスって、実は自分が出発点だったりしますよね。
Aile The Shota:それこそ、こういう曲を作るときには決まってback numberをめっちゃ聴くんですけど、清水(依与吏)さんが書く言葉はすごいな、敵わないなって思います。
―Shotaさん、学生時代にback numberのコピバンでボーカルされていたんですよね?
Aile The Shota:やってました!
―back numberの歌詞に関して、具体的にどこが「すごいな」「敵わないな」って思いますか?
Aile The Shota:「この心情をそうやって描写できるんだ」と思うこともあるし、それこそ女性目線の歌詞も多いじゃないですか。トライしたからこそ、その難しさがわかりますね。やっぱり想像の範疇が深いなと思います。とことん傷っぽい曲に優しさがある、というバランスもすごいなと思う。詩を書く責任がある中で、重すぎると誰かを潰してしまう可能性もあるけど、「とことん落ちるけど救いがある」みたいなバランスがすごいと思います。詩を書く人としてめちゃくちゃ尊敬していますね。
―最後に救いがある、というのはJ-POPの特徴のひとつかもしれないですね。
Aile The Shota:どこかに救いがあるんですよね。優しい。気遣い。
―日本人の気遣いが音楽にも出ているのかも。
Aile The Shota:いわゆるJ-POP特有の救いみたいな要素って、日本人らしいんじゃないですか。それは大事なアイデンティティだなって思います。こないだソングライティングキャンプで海外のソングライターともセッションして、「歌詞を聴く」というのは日本やアジアのカルチャーだという話をしたんですよね。日本から距離が遠くなればなるほど「音を聴く」が強くなる。日本語は同じ意味を表すのに何パターンもあるので、難しいなって思います。どうしても「簡単にしたほうがいいのかな」って思う瞬間があるから、難しい日本語を使って大衆的になっているポップスや詩的なJ-POPが超好きですね。そういう曲には元気をもらえます。あと、ソングライティングキャンプでナオト・インティライミさんとも初めてお会いしてセッションしたんですけど、「日本人が作るメロディはすごいんだよ」とも言ってました。セッションが終わったあと、そこで出会った海外の友達が「向日葵花火」を聴いて、「やばいね」みたいなリアクションをくれたので嬉しかったです。
「J-POPは、ずっと飾る写真みたいなもの」
―歌に関しては、東京ガーデンシアターでのワンマンを経て、自分のどういう歌声が人に届くのかという探求がまた一歩深くなったのかなと感じました。
Aile The Shota:☆Takuさんからのディレクションがあったのは、メロディやリリックもそうなんですけど、一番は歌に関してでした。
ちょうどワンマンに向けてりょんりょん(ボーカルトレーナー・佐藤涼子)と発声の新たな正解を作ろうとしている中で、「あんたは優しすぎるからもっと声を出して」とか言われていたんですけど、このレコーディングのときも最初は優しく歌っていて、☆Takuさんからも同じように「もっともっと」っていうディレクションをもらって。J-POPを聴いていると、「声の強さ」みたいなものが共通してあるのかなって思います。歌声の重心とかは「キャッチー」に繋がるんだなって。
―最近は「サビがバズらない」とかも言われるけど、そんなことまで言われると、いよいよ「J-POPとは何だ?」ってなりますよね。
Aile The Shota:「今Aメロがバズるからね」っていうのは、毎回セッションで1回は話に出る気がする。でも俺はいいサビを作ることにこだわり続けたいです。そうじゃないと歌っていて楽しくないので。自分がハンドマイクを持って、その曲を流したときに気持ちいいかどうかが、ジャッジの基準ですね。僕が作る音楽は自分が納得した状態で人に渡したいので、時代とは戦い続けなきゃなと思ってます。
―トラックにギターを入れたい、となったのはどういう発想からだったんですか? ギターが入ることで、より「平成ポップス感」というか、キマグレンなどとも接続するようなJ-POPになっていますよね。
Aile The Shota:ギターがないとダメでしょ、みたいな。「夏のポップスといったらギターがほしいよね」ってなって。それこそDREAMS COME TRUE、サザンオールスターズ、flumpoolとか、俺が聴いていたJ-POPは生楽器なので、やるなら生がいいなって。あと、バンドが作るJ-POPも好きなんですよね。最近だと、マルシィ、シャイトープとかも好きだし。ライブでバンドと一緒にやる時間が増えていることもあって、当たり前に打ち込みの時代になってきている中で、生の楽器が入ることによって開くものが多いことに気づいたタイミングでもあったというか。ダンスミュージックを作るなら打ち込みでやりきるのもいいと思うんですけど、Aile The Shotaでポップスを作るとなったら生楽器が必要だなって気づきました。「AURORA TOKIO」「Yumeiro」「FANCITY」とかが人気の理由も多分それだと思う。打ち込みがいい悪いというよりも、生楽器が入っているものはリアクションも刺さる層も変わることに気づいたかも。
―ミュージックビデオには、『オフライン ラブ』でも話題の島村雄大さんが出演しています。これはどういう理由だったんですか?
Aile The Shota:実は昔から友達で。
―へえ!
Aile The Shota:共通の知り合いが誘ったことがきっかけで、僕のファーストワンマン(2023年7月2日、KT Zepp Yokohamaにて)を見に来てくれていて。その直後に何回か飲んだりしました。ちょうど「向日葵花火」を書き終えて、時間ができたときに『オフライン ラブ』を見たんですよね。映像の中の彼とプライベートの彼はまったく一緒で、「やっぱりいいやつだな」とも思ったし、もどかしい部分が自分と重なったりして。めっちゃいいやつで、めっちゃ可愛いからこそ、「こいつ、ここ大変なんだろうな」とかもなんとなくわかる。とにかく『オフライン ラブ』を見終わったあとにまた雄大と会いたいなと思ったし、雄大にこの曲を聴かせたいなと思って。実際に会って聴かせたら、その場で彼は涙を流したんです。大事にしている仲間とクリエイティブを作ることは僕の軸でもあるし、この曲を聴きながら街を歩いていたときに頭の中で浮かんだ映像に雄大のハマり方がすごくよかったので、その場で「MVに出てほしいんだけど」って言って、後日しっかりオファーして、というのが彼に出てもらった経緯です。友達にオファーする感覚でクリエイティブできると、みんなの思い入れのある作品になるので、大成功だったなと思います。
―めちゃくちゃ素敵な経緯ですね。
Aile The Shota:あのビデオの雄大の顔、やばいですよね。曲の主人公と雄大が重なる部分をそのまま表現してくれればいいから、あまり演技をして作り込まないでほしい、という話もしました。ビデオを作って、やっぱりこの尺とこの展開にしてよかったなって改めて思いましたね。ドラマを見ているような気分になれるので。毎回MVでは全部リアルにするために細かい部分を気にしているんですけど、彼女役の(牧野)真鈴ちゃんが持っている携帯のメモとかもとことんリアルであってほしいから、絵文字の使い方までこだわりました。めちゃくちゃ恋がしたくなるビデオを作れてよかったなと思います(笑)。
―「SAKURA」「さよならシティライト」「踊りませんか?」とかもそうですけど、俳優を使ってストーリー仕立てのミュージックビデオを作るのは、どういう考えからですか?
Aile The Shota:曲を自分事から手放すための手段かなと思います。ずっと自分が表現していると僕の物語として映っちゃうから。でもそれで言うと、今回はドラマシーンがちゃんとあの尺感であるからこそ、自分のリップシーンはカメラへの強いアプローチとかも含めて、自分事として表現できました。ビデオも含めて、この曲は満足度が高いですね。
―曲にしろ映像にしろ、平成やY2K要素を持ってくる理由が、「最近流行ってるから」とかじゃなくて「自分のルーツだから」というのがすごく大事な気がしますね。
Aile The Shota:そう、僕にとって一番素直なルーツがJ-POPなので。ずっと飾る写真みたいなものって、J-POPなんだよなあ。人生にとって忘れられない曲になるポテンシャルが一番高いのは「いい曲」で、これまでは身体を踊らせる曲をいっぱい作ってきたけど、その中で心も動くものを大事にしたいなと思います。そう思うのはDREAMS COME TRUEの影響ですね。ライブで「何度でも」が流れたときに、「この曲にこんなにも多くの人が救われているんだ」みたいな空気感が起きることを感じるんですよ。自分が好きな時代のJ-POPにフィーチャーして、それをリバイバルさせるじゃないけど、日本の音楽シーンにおいてしっかり大きくしたいなと思います。
―J-POPには、この国に住んでいる人を救う力があるはずで、そういう力のある音楽を今の時代に生み出したいということですよね。この先でいうと、秋と冬の曲で、どこまでAile The Shotaの存在感を大きくしていくかが大事になってきそうですか?
Aile The Shota:そうなんですよね。でもこういうポップスの生み出し方になっていくと思う。時代に迎合しない、ただ時代に寄り添う。全然TikTokも意識してないし、SNSに迎合しないけど、「今の時代ってこういう言葉がほしいんだろうな」とかは考える。秋の曲とかは、「愛とは」みたいな、ラブソングがより広義になる感じがします。今年はBMSGが5周年だからこそ、めちゃくちゃ個人的なことばかり考えるタイミングかなと思っていて。
―それはどういう意味で、ですか?
AIle The Shota:『THE LAST PIECE』(現在BMSGが開催中のオーディション)は、彼らだけのものじゃない感じがする。『THE FIRST』のストーリーも完結するのが今回のタイミングで、僕らも最後のピースを、それぞれの形で見出すタイミングかなと思います。だからポジティブに「何をやろうかな?」って思ってます。やらなきゃいけないこと、やりたいことがめっちゃあって。でもそれもナオト(・インティライミ)さんに「30歳に向けて、やれることとやりたいことが重なってくるよ」って言われて、なんとなくそうなっている実感があるので、すごく元気をもらいました。オーガナイズイベントも積極的にやっているし、いろんな場所にAile The Shotaの居場所ができつつあるので、しっかり研ぎ澄ましていけるといいなと思ってます。考える要素も、妥協できないポイントも、増え続けているから大変で。だからソングライティングキャンプみたいに「1日5時間で曲を作る」とかがデトックスの感じではありました。どれだけ真摯にポップスを作るとなったとしても、生みの苦しみを味わうのは大事ですけど、音を楽しむというマインドは忘れずにいたいですね。
Digital Single
「向日葵花火 (Prod. ☆Taku Takahashi)」
Aile The Shota
配信中
https://orcd.co/ats_himawarihanabi