「メゾン マルジェラ」が1988年に“タビ”ブーツを発表すると、そのつま先が分かれたデザインは瞬く間にカルト的な人気を獲得した。時は流れて現在、かつてはニッチだった足袋シューズは、「アディダス オリジナルス」の“サンバ”と同じくらい広く普及するスタイルとなった。しかし、一見飽和状態にあるこの市場において、この夏ダークホースが控えている。「ナイキ」の“エア リフト”だ。
最近街中で足袋シューズをやたら見かける、と思っている人は気のせいではない。「ビブラム」の“ファイブフィンガーズ”や、「トリー バーチ」のさりげないスリット入り、「キコ・コスタディノフ × アシックス スポーツスタイル」のコラボスニーカー“タビ”など、つま先が分かれたデザインの靴は現在トレンドに浮上しているのだ。
Claudio Lavenia//Getty Images
革命的なデザインとなった「メゾン マルジェラ」の“タビ”ブーツ。
“エア リフト”の特徴は、今日最も人気のあるフットウエアのデザイン要素を独自に融合させているところにある。足袋のアバンギャルドなエッジーさに加え、「プーマ」の“スピードキャットバレエ”や「ルイ・ヴィトン」の“LV スニーカリーナ”のようなバレエフラットシューズの洗練されたエレガンス、そしてスニーカーの一日中履ける快適さのハイブリッドだ。“エア リフト”の話題性は数字にも裏付けられており、オンラインマーケットプレイス「Poshmark」によると、「ナイキ エア リフト」の検索数は2024年12月以降95%増加しているという。
最近になって人気が出ている“エア リフト”だが、デビューは実は1996年。「ナイキ」のモデルメーカーでありウルトラマラソンランナーでもあるキップ・バックによってデザインされたこのシューズは、ケニアのグレート・リフト・バレーの豊かなランニングの伝統とドラマチックな地形の両方に敬意を表して名付けられた。「ナイキ」の北米コミュニケーションディレクター、リン・ブレッドフェルトによると、この渓谷の地形が、シューズの特徴的なスプリット・トゥのデザインに直接インスピレーションを与えたという。スニーカー史家のニコラス・スミスは、“エア リフト”を「ナイキ」のアーカイブにおける異端児と評し、ブランドがより実験的なアプローチを採用していた時期に発売されたものだと説明する。“エア リフト”はさまざまなアスレチックシューズの特徴を融合させた、多用途なクロストレーニングシューズへと向かう当時の潮流を体現している。
“スニーカーでも、サンダルでも、バレエシューズでもない、これといったカテゴリーに当てはまらない自由な靴です”
2024年に「ナイキ」がスエードバージョンを再リリースするまで、“エア リフト”は転売プラットフォーム以外で見つけることはほぼ不可能だった。Netflixのタレントエグゼクティブ、ファディア・ケーダーのような長年のファンは、あらゆる努力をしてコレクションに励んできた。彼女は、韓国の友人に珍しい配色の一足を送ってもらうように頼んだこともあるという。ケーダーは熱中していたときには30足を所有していたが、現在では10足近くをキープしている。
厳密に言えば“エア リフト”は廃盤だったわけではないが(2015年にリバティプリントのバージョン、2016年にメッシュバージョンがリリースされている)、今夏、通気性のあるメッシュ素材にアップデートされて本格的に復活を遂げた。「スニーカーでも、サンダルでも、バレエシューズでもない、これといったカテゴリーに当てはまらない自由な靴です」とコンテンツクリエイターで博士課程の学生のケイト・バウアーは語る。
多くのレビュワーが“エア リフト”の圧倒的な快適さについて指摘している。「今まで履いた中で最も快適なシューズです。靴下なしで2万歩歩いても全然平気です」と、トレンド予測のコンテンツクリエイターで、「奇抜な靴の女王」の異名を持つマンディ・リーは言う。リーが初めて“エア リフト”を手に入れたのは2023年のことだった。当時、その型破りなシルエットの靴に関する彼女の投稿には反論が多かった。しかし今では、反響は圧倒的に好意的なものに変わったと言う。これは、“エア リフト”が風変わりな存在から着実にアイコンへと成長してきた証しだろう。
launchmetrics.com/spotlight
「トリー バーチ」2025年春夏コレクション
Umberto Fratini
「キコ コスタディノフ」2025-26年秋冬コレクション
“エア リフト”は145~170ドル(日本は12100円~)という価格帯から入手できるため、足袋シューズの手頃な入門モデルとしてもおすすめだ。「靴に1000ドルも投資する気がないなら、“エア リフト”は足袋シューズの世界に足を踏み入れる良い方法であり、大金をかけずに同じようなスタイルが手に入ります」と、デザイナーでコンテンツクリエイター、そして「メゾン マルジェラ」の“タビ” シューズの熱烈なファンでもあるメリッサ・ムジツカは言う。
そのパッチワーク的デザインから、驚くほど汎用性が高く、幅広い服装に自然にマッチする点もうれしいところ。「シックでありながらスポーティーな印象も持ち合わせています」とケーダー。「ドレスアップにもドレスダウンにも着こなせます。私はいつもワンピースと合わせますが、レギンスやショートパンツ、オーバーオールと合わせることもあります。どんなスタイルにも合わせやすいんです」
この夏、サマーシューズを一足だけ買い足すとしたら、“エア リフト”は 間違いなく最も万能な一足と言えるだろう。前述のシューズマニアのリーは次のように述べている。「私はミニマリストではありませんが、一カ月間これだけを履いて過ごすとしても、かなり満足できると思います」
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