さらにこのトレンドは、ほかのメンズウェアにも飛び火している。女性には以前から補整用のインナーや、ジム以外の場所でも着られるアスレジャー系の選択肢が豊富にあったが、今では男性も、太もももあらわな、タイトなランニングパンツ姿でどこにでも出かけるようになった。さらにトップも、引き締まった腹筋や大胸筋をアピールしようと、よりタイトなものが選ばれている。

しかし、ランティンクと同様に、デムナも皮肉やジョークを駆使している。彼が掲げる“鏡”に映るのは、私たちの文化、そしてその盲点だ。その意味で、彼は反体制的なデザイナーの系譜に連なる人物と言える──その誰もが、美に対する一般常識に敢然と反旗を翻すことで名を挙げた者たちだ。こうした反抗的なデザイナーの中でも、最も偉大で明らかな功績を挙げているのはミウッチャ・プラダだろう。彼女が世に送った中でおそらく最も有名な、プラダ(PRADA)の1996年春夏コレクションは、「アグリー シック」が誕生した歴史の転換点だった。このコレクションでミウッチャは、野暮ったいとみられがちなスタイリングやすんなりとは受け入れがたい色使いを、洗練を極めた、説得力のあるルックで再評価へと結びつけた。

ボディニュートラル、2025年、コラム、ポジティブ

プラダ 1996年春夏コレクション

それから30年近い時間が経ったのちも、彼女はこのレガシーを拡大させ続けている。ミュウミュウ(MIU MIU)の2025-26年秋冬コレクションで、ミウッチャは女性らしさとアクセサリーの関係を考察した。それが何より明確に表現されていのが、50年代を思わせるコーンブラだ。このコレクションにはイタリアのブルジョワジーを思わせる雰囲気があったが、同時に反抗の精神も息づいていた。一般的な美を求め、規範に迎合しようとする私たちの思いを拒否する、さらには皮肉る気配さえ感じさせたのだ。

ボディニュートラル、2025年、コラム、ポジティブ

ミュウミュウ 2025-26年秋冬コレクション

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ミュウミュウ 2025-26年秋冬コレクション

ランティンクやミウッチャが、体のフォルムをアクセサリーとして解釈することで女性らしさを演出していたとすれば、ローズベリーやデムナは、自分自身を美の規範に沿わせようとする、私たちの強迫的な思いをそのまま受け入れていると言える。そうした表現が成り立つのは、ファッションがこれまで、文化からの要求を受け入れてきた実績があるからだ。前述の、規範に反抗するガリアーノ作のコレクションでさえ、これがポップ カルチャーの世界で最も有名になった瞬間は、2024年のメットガラの場だった。ここでこのコレクションからのピースをまとったのは、現在の「理想の体」の究極の姿である、キム・カーダシアンだ。キムはまた、自身の展開する、補整インナーに端を発するブランド、スキムズ(SKIMS)や、今後展開予定のナイキ(NIKE)とのパートナーシップで、この「理想の体型」をファッションビジネスに持ち込んだ人物でもある。

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