ポーチの中でもかさばらず、ミニバッグにもすっきり収まるサイズ感。さらに、手に取りやすい価格とコロンっとしたかわいらしいビジュアルーー。そんなミニリップが、ビューティ市場で存在感を増している。「ピアー(BBIA)」「ティルティル(TIRTIR)」「ラカ(LAKA)」などの韓国コスメブランドが相次いでミニリップを販売している。
ミニサイズのコスメは、決して目新しい存在ではない。ミニコスメをコンセプトにしたブランドがあったり、デパコスブランドのギフトセットにトライアル品として組み込まれていたり、サンプルとして提供していたり。「旅行にピッタリ」「使い切れる」と昔から一定のニーズがあった。
だが、韓国ブランドによるミニリップは「小さくて便利」な枠にとどまらない。バッグトレンドに合わせたサイズ設計や、複数色を気軽に買える&試せる価格帯、写真映えするビジュアルまで、“小ささ”を戦略として捉えて新しい価値を生み出している。
今回は、ミニコスメ戦略を加速させている韓国ブランド2社と、実店舗での仕掛けを担うアイスタイルに話を聞いた。
「ティルティル」の“ウォーターリズムグロウティント ミニ”
“ウォーターリズムグロウティント”は、発売から約7カ月(2024年5月15日~12月15日)で累計販売数70万個を達成した人気の製品。保湿成分を配合し、メイク効果とケア効果を両立している。ミニサイズは本品の約3分の2サイズで、持ち歩きにも最適だ。豊富なカラーラインアップが特徴で、ラズベリーレッドやロージーベージュ、オレンジレッドなどの新15色を含む全30色を用意した。
WWD:なぜミニサイズに?
「ティルティル」PR担当:昨今は、リップを重ねて楽しむメイクがはやっていると感じます。それに伴い、リップアイテムを複数持ち歩く人が増加。ファッション業界で流行しているミニバッグにも入るよう、人気のリップ“ウォーターリズムグロウティント”のミニサイズを発売しました。
WWD:ユーザーの反応は?
「ティルティル」PR担当:非常に好評です。あるバラエティーショップでは、月間売り上げ個数ランキングのトップ20のうち、半数近くを“ウォーターリズムグロウティント ミニ”が占めた月もあったほどです。“ウォーターリズム”シリーズのルーキー的な存在として、注目を集めています。
WWD:人気のカラーは?
「ティルティル」PR担当:“8 サマーパンプキン”、“13 ライクリー”、“27 ミューティローズ”、“28 ウィンタリー”の4色が人気ですが、特に27と28は、先行販売を行った韓国・聖水(ソンス)のポップアップイベントでも反応が良かったカラーです。
WWD:30色展開のメリットとデメリットは?
「ティルティル」PR担当:メリットはパーソナルカラーや年齢に関わらず、さまざまな人に使用してもらえること。一方で、カラーの多さから販売できるECサイトや店舗に限りがでてきてしまうという課題もあります。
WWD:今後もミニサイズのコスメは増える?
「ティルティル」PR担当:増えていくと思います。「ティルティル」もミニコスメが流行する前から“マスクフィットクッション”シリーズのミニサイズを販売していますが、今も根強い人気を誇ります。
特にクッションファンデーションやリップ、ハンドクリーム、パフュームなどの外出先で使うアイテムは、ミニサイズが定番化しつつある印象です。
「ラカ」の“フルーティーグラムティント ミニ”
“フルーティーグラムティント”は、唇に⻑時間潤いと透明感のある艶を与えるティントリップで、透けるような光沢感を宿し、生き生きとした唇に仕上げる。パッケージは、手になじむコロンとした丸みのある形が特徴。カラーは、既存23色にミニコレクション限定の新7色を加えた全30色を用意している。
WWD:なぜミニサイズに?
「ラカ」マーケティング担当:以前、一部バラエティーショップ限定で“フルーティーグラムティント”のミニサイズの2本セットを販売していました。これが好評だったことから、ミニリップ単体で販売することとなりました。
WWD:ユーザーの反応は?
「ラカ」マーケティング担当:イベントやSNSでは、「見た目がかわいい」「値段が手軽でたくさんの色を試しやすい」「ポーチに入れて持ち歩きやすい」「使い切れる量がうれしい」など、多くの好意的な声をいただいています。
WWD:人気のカラーは?
「ラカ」マーケティング担当:上品なブラウンレッド系の“120 カフェインローズ”です。3月6〜12日に渋谷ロフトで開催した「NEW ME LABO」のイベント会場でも、たくさんの方に手に取っていただけました。
WWD:30色展開のメリットとデメリットは?
「ラカ」マーケティング担当:自分の似合うカラーを見つけやすく、価格も手頃で挑戦しやすい点は大きな強み。一方で、容量換算すると通常サイズより割高になるケースもあります。
WWD:今後もミニサイズのコスメは増えていくと思いますか。
「ラカ」マーケティング担当:他ブランドからもミニサイズの新作が続々登場しており、イベントでもお客さまのリアクションが良いことから、今後も増えていくと見ています。
「アットコスメ」が見る、ミニコスメ市場の現在地
「ミニコスメ」コーナー
ミニコスメの売り場といえば、2025年3月のリニューアルで新設された「アットコスメトーキョー」の“ミニコスメコーナー”が記憶に新しい。実際、ミニコスメやミニリップに需要はあるのか?売り場は盛り上がっているのか?などの疑問をアイスタイルの担当者2人に聞いてみた。
WWD:「アットコスメトーキョー」にミニコスメコーナーを新設した理由は?
北尾悠樹 アイスタイル取締役 店舗カンパニー カンパニー長(以下、北尾):店頭に並んでいるディスプレー什器の多くは通常品を中心に陳列しており、ブランドや製品に興味がある人しか立ち止まりません。そこで、「気になるけど、試したことがない」層にも訴求したいと考え、お客さまとコスメの最初の出合いをかなえるミニコスメを主役にした売り場を作りました。
WWD:実際、ミニコスメコーナーは盛り上がっている?
南真彩 アイスタイルリテール店舗カンパニーTOKYO事業部店舗運営グループマネージャー(以下、南):結論、すごく盛り上がっています。お客さまが吸い込まれるようにミニコスメコーナーに入っていくんです。売り場にいる年齢層は幅広く、メインは10〜20代の女性。美容が好きなお姉さま世代もおり、ミニコスメだけで数万円購入する方もいらっしゃいます。
北尾:こんなに盛り上がるとは思っていませんでした。予想を大きく上回る反響で、僕らも驚きです。「アットコスメ トーキョー」で実績を作り、ほかの店舗でも展開できればと考えています。
デパコスから韓国コスメまで「ミニコスメ」をそろえる
WWD:ミニコスメコーナーで特に人気のアイテムは?
南:「ナーズ(NARS)」のチーク“ブラッシュ N ミニ”や、「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」の美容液“アドバンス ナイト リペア SMR コンプレックス”のミニサイズ、「SK-II」のパック“フェイシャルトリートメントマスク”(1枚)など、デパコスのアイテムが人気です。手に取りやすい価格で試せるということから、購入するお客さまが多いようです。
北尾:特に、「ナーズ」の“ブラッシュ N ミニ”はミニコーナーを新設したことで、とんでもなく売れましたね。ずっと前から定番棚に並んでいるアイテムなのですが、お客さまは意識しないと「見つけられない」んですよね。ミニコスメコーナーに並べたことでたくさんの人に見つけてもらえた、1つの好例でした。
WWD:ミニリップの動きは?
南:非常に好調です。カラーバリエーション豊富で、いろいろ試せるのはお客さまにとってもうれしいと思います。また、店頭のディスプレーにはミニサイズと現品サイズの両方を置いて、ミニチュア感を演出。お客さまから「小さくてかわいい!」などの声をよく耳にするので、“ビジュウケ”も良いですね。
WWD:課題は?
北尾:ミニコスメというカテゴリーがまだ世の中に存在していないので、発注から陳列までのオペレーションが煩雑です。メーカーは通常品として扱っていないので、商品をそのまま並べることができず、リパッキング作業が必要になります。
このオペレーションが改善できれば、もっと商品数を増やしたり、他の店舗でもミニコスメコーナーを設けたいと思っています。僕らのリクエストとしては、韓国コスメブランドのように他のブランドもミニサイズの製品を通常品として流通してくれると助かります。
WWD:今後のミニコスメ、ミニリップ市場の展望は?
北尾:ミニコスメというカテゴリーがもっと充実してほしいなと思いますし、実際ミニリップの市場が大きくなっていることは事実だと思います。ただ、ミニリップはリピートにつながりにくい商品でもあると考えます。
というのも、スキンケアアイテムは気に入れば現品購入につながりやすく、エントリー製品としてとても優秀です。一方で、リップは冒険したい人が多いため、リピートより「使い切り」を目的に購入される傾向が強い。むしろ、リップは「ミニこそ最適サイズ」と言えるのかもしれません。
ミニコスメの市場は、“ミニ”にとどまらない
従来は「持ち運びやすさ」や「試しやすさ」が重視されていたミニコスメ。だが、現在は価格からデザイン、色展開まで計算された戦略的商品としての注目度が高まっている。
韓国ブランドの企画力、そして小売現場の売り場作りがリンクし、ミニコスメ市場は確実に広がりつつある。小さなコスメが示す大きな市場の可能性に、今後も注目していきたい。