国内アイドルグループに見る「かわいい」の多様化——「Y2K」「ダークネス」「フェアリー」 - WWDJAPAN - Moe Zine

アイドルグループdiig(左)とBENNY

文筆家・つやちゃんがファッション&ビューティのトレンドをポップスターから紐解いていく本連載。第7回は多様化する「かわいい」を国内のアイドルグループをもとに分析していく。

国内のアイドルシーンが独自の進化を遂げている。2025年、時代を象徴する存在となったのはFRUITS ZIPPER(フルーツジッパー)。「あなたのかわいいはそれぞれ」「自分の中にあるかわいさを信じよう」というメッセージを発信する彼女たちを筆頭に、「自分のスタイルこそがアイドル」という価値観への転換が起きつつある現在だ。「かわいいの魅力は変幻自在」と語るのはFRUITS ZIPPERをはじめ数多くのアイドルを手掛ける木村ミサ(KAWAII LAB.)の言葉だが、こうした多様なかわいさが、いくつかの潮流に分かれつつ加速しているのが昨今の状況と言ってよいだろう。しかも、その自己流のかわいさは、音楽だけでなくファッションとも密接に結びつきながら独自の世界観を形づくっている。本記事では、スタイリングとともに新たなムードを生み出している国内アイドルの現在地を紹介したい。

そもそも、自己決定的なかわいさがアイドルの世界で一般化したのは、ここ数年の話にすぎない。もちろん以前にも自分らしさを打ち出すアイドルは存在したが、それが「かわいい」という感性領域において、本人の視点から語られるようになったのは2010年代半ば以降の変化である。10年代初頭、AKB48や地下アイドル文化の台頭により、完璧さよりも親近感や未完成性に価値が置かれたことでかわいさの正解が揺らぎ始めた。BiSやでんぱ組.incなどは、奇抜さ・混沌・オタク的要素をかわいさに取り入れることで、表現の多様性を切り開いていった。かわいさの基準は、徐々に、“運営による設計”から“本人のキャラクターが受け入れられるか”へと変化していったように思う。

そこにSNSと自己演出文化の浸透が重なり、「かわいさは自分で作るもの」という感覚が広がっていく。同時期、ポップカルチャーにおける女性表現の見直しが進み、「かわいくなければならない」「かわいいは男ウケのため」といった同調圧力への違和感が可視化されたのも大きい。結果、「かわいい」は他人の期待に応じるものから、自分で選び取るものへと変わっていったのである。さらに推し活文化の浸透により、ファンは単なる評価者ではなく、推しと物語を共有する存在となった。「私はこういうかわいさが正解だと思う」と打ち出すアイドルに共鳴し、そのスタイルを支えることが一般化したのだ。こうした関係性の中で、かわいいもカッコいいも、より個人の内側から立ち上がる価値となっていった。

もちろん現在も、アイドル像の多くはプロデューサーや運営による設計の中で成立している。しかし、それでも本人が自分らしさをどう表現するかに関わり始め、境界線が曖昧になってきているのは確かだ。かわいさ/カッコよさの基準は、外から一方的に与えられるのではなく、(運営とともに)自ら選び、磨き、発信していく時代。「私はこういうかわいさ/カッコよさが正解だと思う」と明確に提示できるアイドルこそが、共感を集め、時代を象徴する存在となる。例えば、複数のグループを掛け持ちながら、DIYな姿勢でかわいさ/カッコよさを自在に行き来する戦慄かなの(悪魔のキッス、femme fatale、ZOCX、チバニャン事変)のような存在は、まさに2020年代的だと言えるだろう。

さて、ここからは具体的な事例を紹介していこう。多様化が進む現代のアイドルシーンにおいて、特にコンセプトや世界観が際立ち、ファッションやスタイリング、ムードによってそれが体現されているグループを取り上げたい。今や、いかに個性を打ち出すかが重要な時代。アイドルは、まるで私たちを異世界へと連れていく魔法使いのような存在であり、どんな世界観をまとうかがその表現の鍵となっている。かわいいやカッコいいといった魅力の軸をどこに置くか――そこに、グループごとのスタンスの違いが表れるのだ。

Y2K:過去と未来のスタイルを架橋する、
意匠としてのかわいさ/カッコよさ

一過性のトレンドというより、もはやスタンダードとして定着した感のあるY2K。ここでは、“かわいさ/カッコよさ”を戦略的に構築する=自分を魅せる技術として捉えるアプローチが特徴的だ。能動的なかわいさ/カッコよさをスタイリッシュに表現し、ファッション性とビジュアルセンスを武器に“こうなりたい私”を自己演出する感覚が前面に出ている。エスパ(aespa)やニュージーンズ(NewJeans)といったK-POP勢の影響も大きく、国内アイドルシーンとK-POP由来のダンス&ボーカルグループの潮流が合流しはじめているのもポイントだ。

BENNY

例えば、2025年にデビューしたBENNY(ベニー)はその筆頭だろう。「ジャパンコア」というコンセプトを掲げ、海外志向を明確に打ち出している点ではK-POP的だが、クリエイティブから放たれるムードには、どこか国内アイドルらしいユルさも感じられる。

BENNYのアーティスト写真

@onefive

また、元さくら学院のメンバーが結成した@onefive(ワンファイブ)もユニークな存在。“Japanese Classy Crush”というコンセプト通り、静かなガールクラッシュの魅力を放つ。川原真由によるスタイリングも、ヘルシーさと雑多性を兼ね備え、国内アイドルらしい独自性を際立たせている。

ダークネス:闇をも包み込んだ、
現場で熱量高く輝くかわいさ/カッコよさ

かわいさやカッコよさを、身体性と熱量で体現するグループもいる。不穏でダークな世界観を音楽や演出に積極的に取り込みながら、闇を突き抜けるようなエネルギーを放つ人たちだ。社会の異物感を孕(はら)みながら、グロテスクさも厭(いと)わず表現する彼女たちのパフォーマンスは、現代の心象風景を描いていると言ってもよいだろう。

ASP

WACK所属のASPは、ノイズ混じりのサウンドとブラックユーモアを交えたステージ演出で、観客の感情を揺さぶる。反抗的かつトリッキーで混沌としたパフォーマンスは、特にライブで高い熱量とともに爆発。服部昌孝によるスタイリングや、JACKSON kakiによるアニメーション/VJが、そのパンク的暗黒世界を強く印象づけている。

YOLOZ

また、uijinの元メンバー・ありぃがプロデュースするYOLOZ(ヨロズ)も、ライブでの熱気が話題を呼んでいるグループ。ヘビーなサウンドにダークな世界観を重ねつつ、ギャルマインドやエモーションを加えることで、“わたし”を現場に刻むような強烈な表現を展開している。スタイリストは、Quubiやyosugalaといったグループも手掛けるShinya Watanabeが務め、YOLOZ特有の陰影あるビジュアルを演出する。

フェアリー:儚く夢幻的な
かわいい/カッコいいの形

夢見心地のようなムードをまとい、現実から少し浮遊したような世界観を漂わせるグループもいる。ドリーミーな中に秘められた個性が、観る者の感受性によって引き出されるような、繊細な表現が特徴的だ。かわいい/カッコいいは柔らかさであり、存在の曖昧さそのもの。輪郭が溶けるような“私”の演出は、誰にも触れられないおとぎ話のような世界を構築している。

diig

diig(ディグ)は、サクライケンタが設立したekomsがクロスノエシス以来5年ぶりに立ち上げたグループ。注目すべきは、かてぃ(Haze)とam6:23がプロデュースするビジュアルの独自性だろう。MVの衣装だけでなく、ライブ衣装においてもフェアリーなムードを細部まで丁寧に構築している。小南泰葉、帰国子女、諭吉佳作/menといった面々が作り出す楽曲も同様の世界観を繊細に描いており、今最も注目すべき新人グループと言えるだろう。

diigのアーティスト写真 画像は公式インスタグラムから

REIRIE

そしてこのカテゴリーの象徴的存在といえば、REIRIE(れいりえ)をおいて他にはいない。REIとRIEという2人の関係性にのみ成立する、曖昧で形容しがたいニュアンス。彼女たちのかわいさ/カッコよさは、既存の語彙では語り尽くせないほどに内的かつ個的なものであり、それはまさに2020年代的アイドルに見られる自己決定の極北として存在している。2人にとってかわいさとは「似合うから」でも「求められるから」でもなく、「信じているから」生まれているのだ。衣装の多くを手掛けている東佳苗(「ルルムウ(rurumu:)」)が生み出す神秘的な質感と相まって、夢想と現実の境界を曖昧にしながら、観る者をどこにもない場所へと誘うREIRIEワールド。観客は彼女たちを「応援する」というよりも、「彼女たちが信じる世界を一緒に信じる」という態度で向き合うほかない。

今回は3つのスタイルに絞って紹介したが、例えばゴス的世界観を徹底するAdamLilith(アダムリリス)や、男女混合の構成によって“かわいい/カッコいい”を攪乱(かくらん)するlyrical school(リリカルスクール)、アイドルそのものをメタ的に捉えるf5ve(ファイビー)、HiiT FACTORY(ヒットファクトリー)、pinponpanpon(ピンポンパンポン)、PIGGS(ピグス)など、現在のアイドルシーンは“かわいい/カッコいい”のバリエーションをそれらの内外からますます拡張している。「自分だけのかわいい/カッコいいを突き詰めること」は、もはや態度であり、自己肯定の営みであり、ある種の新しい信仰とも言えるだろう。自らの魅力を再発掘し、最後まで追求し信じきれるアイドルこそが、アイドルになる時代なのだ。

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