ファッションデザイナーのトム・フォード氏は2011年、「男性は街中でショートパンツをはくべきではない」と断言した。洗練を極めたデザイナーへの敬意を忘れずに言うならば、そうした時代はすでに過ぎ去った。
俳優のペドロ・パスカル氏がニューヨークで開かれるファッションの祭典「メットガラ」で膝上のショートパンツにブーツと赤のヴァレンティノのコートを合わせ、ファッション界に最後まで残るタブーの一つを破ってから2年がたつ。
身長約196センチのオーストラリア出身の俳優ジェイコブ・エロルディ氏も、ヴァレンティノの24年春コレクションのランウェイに、太ももがあらわになるショートパンツにネクタイとレザーブレザーを合わせた姿で登場した。
その後も、俳優のクリス・パイン氏、コールマン・ドミンゴ氏や、音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムス氏らファッションの冒険者たちが、レッドカーペットでショートパンツ姿を披露。
私生活では、俳優のポール・メスカル氏、ドナルド・グローバー氏が、際どい短さのショートパンツでSNSをにぎわせている。
こうした動きに呼応するかのように、今年のメンズウエアのランウェイでは、あらゆる形・素材のショートパンツが登場した。
ドリス・ヴァン・ノッテンやディオールではドレープ感のあるゆったりとしたデザイン、JWアンダーソンではぴたりとしたバイクライダー風。
ラルフローレンは細身のプレッピースタイル、トッド・スナイダーはゆとりのあるプリーツ入りのバミューダショーツを展開している。
グッチは極端に短く、ブリオーニはスラックス風のカット、フェンディはスポーティーなスリット入りだ。ニール・バレットは光沢のあるアスレジャー調のデザインにセットアップのジャケットを合わせた。
言葉遊びかもしれないが、要するに今はまさに「ショートパンツの黄金時代」だ。これを自由で創造的な時代と捉えるか、ファッションの無秩序と見るかは人それぞれだ。
街を歩けば、ミッドサイ(太もも中ほど)丈のアスレチックショーツや、Z世代が2000年代初頭のカルチャーにひかれてはく膝下丈のジーンズショーツ、さらにはファッション感度の高い若者が選ぶボリュームのあるバギースタイルまで、百花繚乱(りょうらん)の様相を呈している。
これこそが、現代のファッション界がいかに細分化されているかを示す証左だ。「インスタグラム」や「TikTok(ティックトック)」といったソーシャルメディアが、かつての統一的な美学を破壊したせいだろう。あるいは、かつての秩序がもう通用しないという社会全体を覆う感覚の表れとも言える。
ラッパーのエイサップ・ロッキー氏とデザイナーのトム・ブラウン氏、ヴァレンティノの赤いコートとショーツ姿で話題をさらったペドロ・パスカル氏
Illustration by 731. Photos: Getty (3)
このように、今がファッションの制度化とは無縁な時代であることを思えば、何らかの規範を設けるのは無駄なのかもしれない。だが、最低限の指針は存在する。「ショーツが格好良くなるかどうかは、選び方次第」だと語るのはファッションデザイナーのトッド・スナイダー氏だ。「シルエットのバランス、合わせる靴、全体のスタイリングが成功の鍵」だという。
米プロフットボールNFLの元スーパースターで実業家のトム・ブレイディ氏ら多くの経営者を顧客に持つロサンゼルス在住のスタイリスト、アンドリュー・ワイツ氏は、まずはコットンやリネン素材を選び、ネイビーやオリーブ、ホワイトといった定番色を夏のイベントでは推奨するという(カーキは一歩間違うと「お父さん感」が出やすいため要注意だ)。
ロロ・ピアーナやブルネロクチネリ、クラブ・モナコ、J.クルーなどのブランドは検討に値する。
いずれのスタイリストも、ショートパンツのカジュアルさを和らげるために、襟付きシャツなど格上げできるアイテムと合わせることを勧めている。
ニューヨークのファッションコンサルタントで、ショーツ愛好家として知られるニック・ウースター氏はショーツにブレザーとロングウイングの革靴を合わせることが多く、「相反する要素をミックスすることで生まれる緊張感が好き」と語る。
そして、グレーフランネルのショーツスーツを長年着こなしてきたファッションデザイナーのトム・ブラウン氏のアドバイスはこうだ。「自信を持って着れば、誰にも文句は言わせない。自分に正直になれば、必ず格好良く見える」。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Show Some Leg! We’re Living in the Golden Age of Men’s Shorts (抜粋)