加藤泉は香港、東京をベースに国際的に活躍する現代美術家です。「人がた」をアイコンとし“怖かわいい”独自の世界を展開しています。今年2月にはミラノコレクションに参加するブランド『アンテプリマ』とのコラボでニットウエアを製作しショーのランウェイを歩きました。また同時期、京都では創業470周年を迎えた老舗『千總』で「加藤泉×千總:絵と着物」と題して友禅に「人がた」を描きました。さまざまな素材のコラボ作品を精力的にこなしている加藤さんに東京で話を聞きました。

人がたは子どもの絵?

──画家として本格的に活動し始めたのは1998年、29歳の頃からですね。

はい、自分が絵に興味があるんだと自覚したのがそのころです。学校で教わった絵の基礎は『モノ』を写真のように描くことでした。それが絵の基礎だと教わりました。それに疑問を感じ、興味が薄れ、美術大学時代は音楽ばかりやっていました。

──加藤さんにとってアートとは?

アートを含む文化がないと自分たち人間を大切にしないし、世界を愛せないから、人間は核兵器のボタンをすぐ押してしまうと思います。そうならないためにアートや文化が機能していると思います。

──加藤さんのアイコンである『人がた』はどのようにできたのですか?

最初の質問と関係しますが、子どもは絵を教わらなくても、直線とか丸とか記号のようなもので絵を描きます。人にとって絵の始まりというのは記号的なものから始まっている、子供には戻れないけど、絵を真剣にやろうと思って、点と線で人の顔といったところから始めて、今の『人がた』になってきました。『人がた』は観る人にそれぞれの感性で楽しんでもらえればいいです。

他者とのコラボレーション

──千總とのコラボ作品では何十年というキャリアを持つ職人さんの友禅に『人がた』の描写を入れたのですね。

はい、染め上がった反物の最後に筆を入れました。その瞬間に失敗は許されない緊張感でいっぱいでしたが良い経験でした。千總さんと知り合ってから約5年後に完成したんです。

Photo: Mitsuru Wakabayashi

Courtesy of CHISO

──アンテプリマのニットの場合、服の形としての制約がありコンピューターに編み地を落とし込むことで『人がた』が自分の手から離れてマシンによって制作されることに違和感はなかったですか?

それは大丈夫。自分の作品が他者によって理解され加工してもらうのは僕がチェックしてればむしろ楽しいんです。アンテプリマのデザイナーの人たちも楽しんで色々イメージをいじってくれて、いい感じになったと思っています。ほとんどダメ出ししませんでした。

友禅の手描きの場合、私が筆で描くように職人の方たちも絹地に筆で描く。これは同じ手法です。最初は『人がた』も職人さんに描いてもらおうと思ったんですが、何かが上手くいかなくて、直接僕が描くことになったのです。

着物の前に鍋島焼とのコラボで皿を作ったことがあるのですが、その時は僕が『顔』の絵を皿に直接描いて、頭の上に乗っているエビの部分を職人さんに描いてもらいました。着物の絵付けはこの経験からきています。

重視するのは同じ方を向いているかどうか?

──次にコラボしたいアイテムはありますか?

モノありきではないんです。何か一緒にやりたいと思ってくれた人とまず話をする。やりたいことの方向性が同じ方を向いていると感じた時にスタートします。

 ──好きなアーティストは?

たくさんいますが、すぐ思いつくのはフランシス・ベーコン、ヴァン=ゴッホ、伊藤 若冲。シンプルな画面の中にたくさんの情報が入っている。彼らは絵の可能性に対して同じ方向を向いています。

──どのようなところがですか?

絵をどう描くか? を試し、これが面白いんじゃないか? ということに貪欲にチャレンジしていくところです。

──今、アーティストとして興味あることは?

教育です。いろんな教育が大切だとは思いますが、大人が子供に文化的な教育をしておかないと、生きるために必要な想像力が貧困になります。それはとても恐ろしいことです。未来をイメージできなければ最終的に人間は滅亡してしまうので。だから、アートは人類が滅亡しないために必要だと思っています。

1日中絵を描いているという加藤さんだが釣りが趣味。音楽も大好きでバンド活動もしているとか。ミラノコレクションのランウェイを堂々と歩くお茶目なところも。自宅は香港と東京。香港のアートシーンの心地良さを聞くとギャラリーとアーティストの関係が対等であることだそうです。次回の個展は島根県立石見美術館での「IZUMI KATO ROAD TO SOMEBODY」これからの活躍も楽しみです。

「加藤泉×千總:絵と着物」

(写真提供:千總)

©2024 Izumi Kato × CHISO

京都、千總ギャラリーにて2025年9月2日(火)まで開催中

IZUMI KATO ROAD TO SOMEBODY

2025年7月5日(土)〜9月1日(月) 島根県立石見美術館

ANTEPRIMA×IZUMI KATO POP UP STORE

2025年8月21日(木)~27日(水) GATE原宿(東京都渋谷区神宮前6-5-10)

加藤 泉

1969年、島根県生まれ。武蔵野美術大学造形学部油画学科卒業。1998 年から本格的に画家として活動をスタートする。2007年にヴェネチアビエンナーレ国際美術展へ参加したことをきっかけに国際的な評価を得る。人間をモチーフにした「人がた」をアイコンに唯一無二の表現方法で世界で活躍。

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