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【06月14日 KOREA WAVE】中年男性の美容に対する思いは複雑だ。外見的に自分がどの程度の男なのか、だいたいわかっている。自分の姿かたちを変えよう、かっこよくなろう、という意欲を、もはや持ちえない。がんばって美容に取り組んでも「だれのために?」と考え込んでしまう。
ただ「清潔な男性」とは言われたい。「小汚い」より「小ぎれい」がいい。「美容はエチケット」と言われれば、すんなり受け入れたくなる。
韓国コスメによる「変身」を試みる毎日新聞外信部副部長の米村耕一さんは52歳。「まだ52歳。『老人』になるのは早い」。こんな気持ちから「銀座メンズサロンMATHIS(マティス)」の“高い敷居”をまたいだ。
◇「浮かせて剥がす?」
「このベーシックでクレンジング・洗顔をして、吸引と肌質別パックと肌を整えますね」
エステティシャンの重信聡美さんが、韓国コスメを使った「トラブル肌」の解決策について説明する。聞き慣れない用語を次々に浴びせられ、米村さんはあとずさりする。
解説を聞いてみると――。
美肌の土台作りに欠かせないのが“落とす”ケアだ。
クレンジングとは、メイクなどの脂汚れや、毛穴につまった角栓、黒ずみなどを落とすプロセス。ゴシゴシ洗えば、肌を痛めてしまう。洗浄力が強すぎると肌が緊張する。逆に、やさしすぎると汚れが残る。カギとなるのは絶妙なバランスだ。
普段の洗顔では落としきれないような毛穴の汚れを、このクレンジングの段階で除去する。
次が毛穴吸引。詰まった角栓(毛穴の黒ずみの原因物質)や汚れをガラス管で吸い取れば、黒ずみがクリアになり透明感がアップする。
ただ、鼻の毛穴は吸引だけでは不十分だ。皮脂や古い角質が詰まり、それが酸化して黒ずみになっているからだ。これを除去するため▽「ピーリング(peeling)」(薬剤を使って皮膚再生を促す施術)により、肌のターンオーバーを促す▽スチーム(水蒸気)を当てて、海洋構造水の力で鼻の皮脂を出す▽さらにそれを吸引する――という段取りを取ることにした。
「銀座メンズサロンMATHIS」で準備されたピーリングの液体。黄色い印が「STP(乳酸ピーリング)」(c)KOREA WAVE
米村さんの顔には角質がしっかり乗っている。これを除去するために、部位別のピーリングをしていければよい――重信さんの提案を、米村さんは「浮かせて剥がすっていうイメージ」と理解した。
ピーリングに使う液体として「WGP(水光ピーリング)」「BP(ニキビ跡・色素沈着)」「OCP(オイリー・ニキビ)」「STP(乳酸ピーリング)」の4種類が用意された。「くすみやシミが見られたので、乳酸を使う」との判断から「STP」が選ばれた。
乳酸は「α-ヒドロキシ酸(AHA)」(果物にも含まれているため「フルーツ酸」という別名もある)の一種で、表皮剥離の促進作用がある。乳酸ピーリングでは乳酸を表皮まで浸透させ、ターンオーバーを促進する。表皮に含まれたメラニンも同時に除去できるため、くすみやシミを徐々に目立たなくする効果が期待できる。
施術に関するカウンセリングの中で、次のようなやり取りもあった。
Q:しっとり仕上げるのと、つやっと仕上がるのではどちらがいいですか?
A:「しっとり」と「つや」の違いがわかりません。
Q:「しっとり」とは、触った感じが温かい。「つや」とは、光っている感じがすること。
A:はぁ……。
日本や韓国の美容のトレンドは「水光肌(すいこうはだ)」だそうだ。「みずみずしい肌」「輝くような透明感」を目指す。「これを少し意識しながら、ピーリングをブレンドさせていただきます」。重信さんの説明を聞きながら、米村さんはここでも力なくうなずいた。
「銀座メンズサロンMATHIS」のカウンセリングルームに掲げられた施術のオプション(c)KOREA WAVE
◇アンプル?チクチク?
エステに関する知識が十分でない米村さんは、明らかに慎重になっていた。どんな些細な用語でも、わからなければ、「素人なり」の質問をためらわずにぶつけていた。一方、重信さんは「よりよい肌を実現するためにはどういう施術が必要か」を説く。両者の間にはまだ“目指すべき肌”のコンセンサスができていないように見えた。
米村さんが特に神経を尖らせたのが「皮膚に針」という施術に触れた時だった。
美容に詳しくない者は「韓国の美容」への警戒感を排除できない。現地報道などで時折、「韓国は整形大国」「それが失敗して惨事になった」「元に戻すのに倍の費用がかかった」などのニュースが伝えられるためだ。こうした情報が組み合わさって、韓国の美容整形に「顔に傷がつくのでは?」というイメージがまとわりつく。
米村さんは、同僚で毎日新聞ソウル支局の日下部元美記者が書いた「美容皮膚科」に関する体験ルポを思い起こしていた。そこには「顔全体に」「まんべんなく」「何度も繰り返し」「美容成分の注射を打たれた」「痛みが続く」「鼻などは特に痛みが強い」「知らずのうちに涙が頰を伝っていた」という言葉が踊る。
重信さんから「幹細胞MTS導入」という言葉を伝えられ、米村さんは「このことか」とピンときたようだ。警戒心はピークに達した。
何かを「打つ」ようだが、「幹細胞MTS導入」という言葉はなじみがない。説明を聞いてみると――。
MTSは「マイクロニードル・セラピー・システム(Microneedle Therapy System)」。マイクロニードル(極微細な針)を使って皮膚に極微細な穴を開ける。すると、その傷を治そうと、皮膚細胞からさまざまな成長因子(細胞の増殖・分裂を促すタンパク質)が分泌される。コラーゲン・ヒアルロン酸・エラスチンなどが増殖し、皮膚の再生・入れ替えが進む。同時にその極微細な穴から美容成分も浸透させる。
マイクロニードルは「髪の毛よりも細い」。こんな説明を聞いて、米村さんの表情がやや緩んだ。
皮膚の構造=MDPI journalsの資料を日本語訳(c)KOREA WAVE
ここでは、ドイツ「Dermaroller GmbH」社の「ダーマスタンプ」という器具を韓国でバージョンアップさせたものを使って、スタンプを押すように多数のマイクロニードルを一度に突き刺す方法を採用することになった。「注射を打つのを、ちょっとマイルドにするという感じです」。重信さんはこう言って安心させた。
肌に浸透させる美容成分は、ここでは「アンプル(AMPOULE)」という言葉で表現されている。そもそも「アンプル」とは、注射剤を入れる密封小瓶。これが韓国コスメで話題になり、「高濃度の美容成分が入った美容液」を指す用語として定着している。
ザクロエキスはビタミンCで抗酸化、低分子のコラーゲン、サーモンから抽出のDNAが韓国で流行している。ダメージを受けたものを、内側から修復する……。こうした説明に、米村さんは十分な理解が進まなかったものの、韓国で定番といわれる「ヒト幹細胞培養液のアンプル」を進められ、これを使うことにした。
説明を聞きながら、米村さんはやはり不安が先走っている。「やっぱり肌の中に入れなきゃいけないのはなんでなんですか?」
化粧水などによる普段の手入れなら、その効果は表面にとどまってしまう。MTSならより深く浸透させられ、効果的だ。肌の再生力も強くなる――頭では理解できても、決断ができない。
「もうすでに、何がなんだか、よくわからないですよね」
ここまで、文章で示せば、おおむね理屈はわかる。だが前知識のないまま、口頭で美容用語による説明を受けても、中年男性はやはり簡単には飲み込めない。
とりあえずの予算を決める。全工程合わせて「18,300円」と提示された。「全部セットでこの金額。思ったほど高くないんですね」。こう言い残して、米村さんは施術室に向かった。
(つづく)
(c)KOREA WAVE/AFPBB News