大阪歴史博物館で6月14日から始まる特別展「正倉院 THE SHOW ー感じる。いま、ここにある奇跡ー」の音声ガイドを務めるのは、大人気声優の神谷浩史さんです。収録を終えた神谷さんに、水先案内人としてどんな気持ちを込めたのか、お話を聞いてきました。
天平の時代、想像もつかなかった
ーー収録を終えての感想はいかがですか。
神谷「一人でのナレーションは孤独だし難しい仕事なんです。そういう仕事のときには、色々なアプローチを試しながら音を作っていくと楽しく臨めることがわかってきました。今回のお仕事でも、『どう伝えたら皆さんに伝わりやすいかな?』と考えながら自宅でリハーサルを重ねてからスタジオに向かいました」
ーー神谷さんには、正倉院をめぐる時空を超えた1300年の物語を旅してもらうという設定のようです。
神谷「1300年も前というのは、昨日のことも思い出せない私には、さっぱり想像もつきません(笑)。今回の物語(ガイド原稿)は1300年もの歴史があり非常に興味深い内容でした。正倉院に納められている宝物も、儀式用と言うと難しく考えてしまいますが、当時と現代の認識の違いでそう思うだけなのかもしれません。例えば、螺鈿(らでん) 紫檀(したんの) 五絃琵琶は、弦が5本ある世界で唯一の琵琶です。今の時代に置き換えると音楽はエンタメで、人の心を和らげるもの。正倉院にあるというと格式のあるイメージになりますが、人の気持ちを和らげる楽器と考えるともう少し身近なものに感じられるのではないでしょうか?」
音声ガイドの収録に臨む神谷浩史さん 撮影・青山謙太郎
美術館のハードル下げるために
ーー本展は、五感で正倉院の物語と宝物の美を楽しむ展覧会ですが、どんなところを意識して収録に臨みましたか。
神谷「美術館というと、世間一般には格式の高い所という思い込みがありますが、誰が来てもいいわけです。そのハードルを下げるために、一声優である僕のような者に声をかけていただいたのだと思います。それで興味を持って来ていただける方はいいんですが、僕のことを全く知らない方がどう思うのか、というのは常に考えながらアプローチしました。僕の声はこういう軽薄な声ですけど(笑)、1300年の重みを感じる声かと思ったらそうじゃなかった。でも伝えたいことがちゃんと伝わる、しかも不愉快でない音声で素直に聞いていただけたら、僕の役割は果たせたなと思います」
ーー主催者側としては、従来正倉院に縁のなかった若い層にも来てほしいという思いがあるようです。
神谷「そういう意図がなければ、僕には声をかけないでしょう(笑)。非常にありがたい試みだなと思います」
ーー音声ガイドの中で、特に来場者の方に聞いてもらいたいというポイントがあれば教えてください。
神谷「テクニカルな話になってしまうんですが、僕は声優なのでアナウンサーさんとは違うんです。アナウンサーさんのように日本語を正しく使えて内容を100%相手に届けるという仕事とは違って、その文章に込められた思いだとか、誰かの書き記したものにその人が書いた思いを載せる、色を付けるのが声優のアプローチだと思っています。過剰にならずにあくまでも想像のお手伝いですけど」
撮影・青山謙太郎
全部見たい、亀田さんの音楽は特に!
ーー音声ガイドで紹介しているステージの中で、特に気になった、見てみたいステージはありますか?
神谷「全部ですよ。当時の技術で作ったものを模して、現代の技術で作っている再現模造には非常に興味があります。当時どういうふうに作ったのか、石や貝をどう削ったのかわからないけど、現代の技術でどう再現したのか、非常に興味がありますよ。で、いまのクリエイターが正倉院宝物にどんなインスピレーションを得て、作品を作ったのか。(音楽プロデューサーの)亀田(誠治)さんがどんな音楽を作ったのか、ここでしか聞けないものですから、ぜひ聞きに行きたいですね。一ファンでもあるので」
ーー紹介した宝物の中で見てみたい、気になったものはありますか。
神谷「全部見たいですよ。再現模造も素晴らしいわけですけど、本物の宝物の細部が大映像で見られるわけでしょう。日頃アニメーションにかかわっていて、誰かが作った絵を動かして、僕らはそこに声を入れていますが、僕は一役者として、この中の絵のどれか1本でも線を入れてみろって言われても絶対できないなと思うんです。人間の手は素晴らしい。(宝物は)1300年も前に誰かの手で作りだしたものですけど、当時はより不自由だった。その当時に作られたものって、僕から見るとオーパーツ(場違いな工芸品)に近いですね」
ーー記事を読んでいる方に一言いただけますか。
神谷「美術展、展覧会に興味を持ってこの記事を読んでくださっている方って本当に素敵だなって思うんですよ。人間にとって必要な知識欲があって、まだまだ成長しようという気持ちを持ってくださっているのは素晴らしいことです。そういう方が音声ガイドを聞いて良かったなと思っていただけるガイドにしているつもりです。聞いていただけたらと思います」
(美術展ナビ関西)
正倉院 THE SHOW ー感じる。いま、ここにある奇跡ー (大阪展)
会場:大阪歴史博物館(大阪市中央区大手前4丁目1-32)
会期:2025年6月14日(土)~8月24日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日 ただし8月12日(火)は開館
入館料:一般2000円(1800円)、高・大生1500円(1300円)、小中学生1000円(800円)
※カッコ内は前売り・団体
早割ペアチケットは一般2枚で3000円(2月20日~6月13日まで販売)
詳しくは展覧会の公式サイトで(https://shosoin-the-show.jp/)
正倉院 THE SHOW ー感じる。いま、ここにある奇跡ー (東京展)
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
会期:2025年9月20日(土)~11月9日(日)※詳細は今後発表
詳しくは展覧会の公式サイトで(https://shosoin-the-show.jp/)
◆あわせて読みたい