【インタビュー】First Love is Never Returnedとは何者なのか? バンドの出自とポップとロックのグルーヴが渦巻く最新アルバム『POP OUT! III』を語る(2025/06/02)邦楽インタビュー・特集|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム) - Moe Zine

【インタビュー】First Love is Never Returnedとは何者なのか? バンドの出自とポップとロックのグルーヴが渦巻く最新アルバム『POP OUT! III』を語る2018年に札幌で活動を開始し、2022年に現体制の5人組となったFirst Love is Never Returned。昨年はそのしなやかで耳心地好い歌声とグルーヴィーで骨太なサウンドに多くのリスナーの心を動かし、今年3月には “挿入歌”がJ-POPシーンをも射抜いた。実生活の中では「挿入歌」が鳴り出すことなどないと歌いながら、この“挿入歌”は、聴く者の人生を彩るように語りかけてくる。これはラブネバの新機軸でもあり、また新たな可能性を見せる1曲。

その“挿入歌”も収録された3rdアルバム『POP OUT! III』が5月28日にリリースされた。新レーベルを発足させての第一弾作品となる本作は、ブラックミュージックへのポップな解釈とロックバンドとしての矜持が独自のグルーヴを生み出す会心作となった。今回のインタビューでは、あらためてラブネバとはどんなバンドなのかをひもときながら、この最新作についてメンバー全員に語ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=YUKI KAWASHIMA

ギターとドラムを探してたんですけど、なぜか完全なるフロントマンである人がギターとして入ってきてくれるということになって(Ishida)
──あらためて、バンド結成の流れを整理しておきたいんですが、First Love is Never Returnedは、ニューヨークでのボーカル留学から帰ってきたKazukiさんがYujiさんと出会って活動をスタートさせたんですよね。

Yuji Sato(B) 海外の人も集まる音楽サークルみたいなところで出会ったんです。そこで僕は音響スタッフをやっていました。そこにニューヨーク帰りのKazukiも来ていて。Kazukiの歌声は他のシンガーと比べても、声に含まれる空気成分みたいなものがずば抜けて豊かで。今はバンドのボーカルなので歌い方も変わってきましたけど、女性でいうディーバ系の人が持っている特徴に近いなと思って聴いていました。

Kazuki Ishida(Vo・G・Key) それで、僕がYujiに「一緒にやらないか」と声をかけて。

──そしてライブ活動を始めて、対バン相手として出会ったのがKotakemoriさんとMizukiさんだったと。Kotakemoriさんは前バンドではギターボーカルだったということですが。

Keita Kotakemori(G・Key・Cho) そうです。僕とMizukiがロックバンドをやっていて、解散するかしないかというときにKazukiたちと対バンしたんですよ。ロックバンドの対バンイベントで、僕みたいなタイプのボーカリストがいっぱいいるわけで。でもKazukiから滲み出るのはロックというよりR&B系の柔らかい歌声。ただめちゃくちゃ歌も演奏も上手かったです。

──Kotakemoriさんは、2019年の春にギターとしてラブネバに加入。

Ishida こっちはボーカルとベースだから、ギターとドラムを探してたんですけど、なぜか完全なるフロントマンである人がギターとして入ってきてくれるということになって(笑)。

──しかも、それまでKotakemoriさんがやっていたジャンルとはかなり違うものになるわけですよね。当初はどんな感じでしたか?

Kotakemori 違うジャンルの者同士が融合していくのは面白くもあったんですけど、そこをチューニングしていくのは結構難しかったですね。First Love is Never Returnedは、初めこそギターロックっぽさがあったけど、どんどんR&Bとかシティポップのほうに寄っていってたから。

Ishida Keitaはまさにロックバンドのフロントマンというイメージだったしね。のちに加入するArataくんもそうなんですけど、僕を含めバンドの中にフロントマン的な存在感の人が3人もいるという状況は、今となっては武器となっているものの、スタート時点ではやっぱり、どういう感じになるのかなっていう思いはありました。活動していく中でちゃんとバンドになっていったという感じでしたね。

──Mizukiさんは2022年の加入ですよね。

Mizuki Tsunemoto(Dr) 前バンドを解散したあとはサポートで叩いたり、ほぼ趣味みたいな感じでいろんなバンドをやってたんですけど、Keitaに久々に会って、『一緒にやらない?』って誘われて。

──それでひとまず4人体制となり、しばらくしてKotakemoriさんがジストニアを発症。それでArataさんの加入へと至るわけですよね。

Kotakemori そうですね。そのとき正直もう辞めようと思ってたんですよ。でもピックを持てないから辞めてしまうのは、この指に負けたことになるんだな、それは嫌だなと。それなら鍵盤とフィンガーで弾けるアコギで続けたいと相談したら、みんな「いいよ」って言ってくれて。それで、前に対バンしたことがあるArataっていうバンドのArataを新たなギターとして迎え入れることにして。あ、なんか韻を踏んでるみたいになってしまって、すみません(笑)。

Arata Yamamoto(G・Cho) (笑)。でもラブネバには正式加入する前から、すでにサポートとして入っていたんです。『POP OUT!』の段階で制作に入っていて。自分は今もArataを続けながらやっているんですけど、Arataではフロントマン、ラブネバではギターとコーラスでバンドを支えるという、そこに面白みを感じています。

R&Bやシティポップが世の中で流行っていたので、徐々にその要素が強くなっていったんですよね。僕は常に流行りを追いかける派なので(Ishida)
──Arataさんのもともとの音楽性はラブネバと親和性が高そうですよね。

Arata そうですね。ArataというバンドはR&Bとかファンク、UKロックの要素が強いバンドなので。

Ishida 僕がバンドを始めた頃は、KotakemoriやMizukiがかつてやっていたようなギターロックバンドを目指していたんですけど、R&Bやシティポップが世の中で流行っていたので、徐々にその要素が強くなっていったんですよね。僕は常に流行りを追いかける派なので。

──ほんとですか?(笑)

Ishida はい(笑)。バンドを始めたこと自体にも、そういうところはあるんですよ。そのあとはさらにトレンドがブラックミュージック系に傾いていったから、それなら取り入れてやってみようと。コロナ禍が明けたらよりそのトレンドは加速していて、そのタイミングでちょうどArataが正式に加入してくれることになったという感じでした。

──2024年には、Spotifyの「RADAR: Early Noise 2024」にも選出されるなど、ラブネバの存在がかなり広く知れ渡った、飛躍の1 年だったと思います。

Kotakemori 去年はいろんなフェスにお誘いいただけるようにもなって、道外でライブをすることも増えました。ライブをするごとにお客さんがどんどん増えて、東京でのライブがソールドアウトしたり、僕らの音楽を聴いてくれる人が増えていると実感できた1年でしたね。

──そして今年、これまでDIYでやってきたラブネバの矜持はそのままに、HEiLO RECORDS(ヒイロレコーズ)という新たなレーベルを発足。その第一弾としてリリースされるのが、3rdアルバム『POP OUT! III』です。ラブネバのポップさとグルーヴが見事に融合した、素晴らしいアルバムに仕上がりました。

Kotakemori これまで1曲1曲、精度を上げるように力を入れて作ってきたし、純粋に自分たちが今届けたいものを出したという感じですね。

──1曲目の“僕らの行進曲”は、弾むようなリズムとキャッチーなメロディのアプローチに、ジャジーな展開があったり、ホーンが効いていたりと、ラブネバならではのポップネスが広がったイメージでした。

Ishida 自分なりに、より伝わりやすいものにしたいという思いがあって。歌詞にあるような「大切な人から返信が返ってこない」という状況は、いろんな人が経験してると思うんですけど、その曲を作りたいというのがまずあって。もうひとつは、中学や高校の、当時はあまり幸せそうじゃなかった同級生とかが、インスタとかで幸せそうな投稿しているのを見たときに、おめでとうだけじゃなくて、何かエールを送りたい気持ちになって、そのふたつを曲にしたいなあというところから書き始めました。そこに自分のバンド人生、ストーリーみたいなのを材料として重ねたという感じですかね。

──その3つの要素というかテーマを、ひとつの曲として成立させる作詞が面白いと思うんですよね。“Black or White?”にしても、白か黒かをカフェラテになぞらえて、それがカフェのバリスタさんのストーリーにもつながっていく面白さがある。

Ishida 昔、東京のどこかのスタバで、たまたま店員さんが辞める、その最後の日を見かけたんですよね。そのストーリーを、オフィスワークの人のストーリーに重ねて書いてみたりしました。

──“それが恋だと言ってくれ!”や“夜的平成浪漫”などは、80’s、90’sのトレンドも絶妙に取り入れた、すごく新鮮なポップミュージックですし。

Ishida この2曲はすべて同じ発想っていうわけじゃないけど、「ある時代の楽曲の現代バージョン」という形で作りたかったんです。80年代とか90年代の音楽やドラマには、その当時の若いカップルみたいな人たちが物語やPVにも出ていたりして、そこから30年、40年が経ち、今その人たちが50代とかになっていたとしたら──という、そんなストーリーですね。

次のページ当時のトレンドと令和のハイブリッドみたいな意識があって、それをみんなで楽しく調理するみたいな感覚でした(Yuji)

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