左から、タラン・アミン=エルフ ビューティ会長兼最高経営責任者、ヘイリー・ビーバー Yana Yatsuk/Courtesy of Elf ©︎FAIRCHILD PUBLISHING, LLC
米エルフ ビューティ(E.L.F. BEAUTY)は28日(現地時間)、モデルのヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)が手掛けるビューティブランド「ロード(RHODE)」を10億ドル(約1420億円)で買収することに合意したと発表した。8億ドル(約1136億円)を現金と株式で支払い、残りの2億ドル(約284億円)は今後3年間の業績に応じた条件付きの支払いとなる。買収額は、2023年に3億5500万ドル(約504億円)で「ナチュリウム(NATURIUM)」を買収した際を上回り、同社史上最大。ヘイリー・ビーバーは、今後もチーフ・クリエイティブ・オフィサー兼イノベーション責任者として製品開発やマーケティングに携わり、統合後の企業の戦略アドバイザーも務める。
「ロード」は、ヘイリーが提唱しSNSで話題を呼んだ“グレーズドドーナツスキン(健康的で艶やかな肌を表現した言葉)”を基本コンセプトに22年に設立。リップバームやセラム、モイスチャライザーなど、厳選した製品展開でファンを拡大した。その後、カラーコスメやスマホケースなど製品ラインアップを拡張し、今秋に北米セフォラ(SEPHORA)での販売も開始する。タラン・アミン(Tarang Amin)=エルフ ビューティ会長兼最高経営責任者(CEO)は、「米国とカナダのセフォラ全店に加え、年内に英国市場にも展開予定だ」とし、「ロード」が同社にとって初のセフォラ進出ブランドになると明かした。
ヘイリーが語る取引の舞台裏
「コミュニティー重視の姿勢に共感」
ヘイリー・ビーバーは今回の合意について、「エルフ ビューティは、創業者のビジョンを尊重し、後押ししてくれる。ブランドがグローバル展開を含む次のステージに進むために理想的なパートナーだ」と語った。「『ロード』は私の“ベイビー”のような存在。信頼できる“家”を探すのは難しかったが、エルフ ビューティとはコミュニティーを重視する姿勢やチームビルディングの価値観で強く共鳴した」。
アミンCEOは、「3年足らずの間にわずか10種ほどの製品とD2Cだけで2億1200万ドル(約301億円)の売り上げを達成したのは驚異的。ヘイリーの持つ勢いや全てが、ビューティ業界に変革をもたらしたいというわれわれの企業理念と合致する」とコメント。
E.L.F.のM&A戦略は一段落
今後は既存ブランドに注力
エルフ ビューティは昨年上半期、ニューヨーク証券取引でトップクラスの業績を上げ、売上高が10億ドルを突破する大きな節目を迎えた。しかし最近は、関税問題の逆風に直面している。同社は製品の75%を中国で製造する。その結果、株価は1年間で約25%下落した。対応策として同社は先週、全製品で1ドル(約142円)の値上げをする価格改定を発表したばかりだ。一方、「ロード」はイタリアと韓国を主要生産拠点としている。
エルフ ビューティは「ナチュリウム」や歌手のアリシア・キーズ(Alicia Keys)による「キーズ ソウルケア(KEYS SOULCARE)」を大きくした実績がある。これ以上のM&Aを計画しているかどうかについてアミンCEOは「当社は昨年、全ブランドが前年を上回る成長を達成した。特に『ナチュリウム』と『キーズ ソウルケア』は過去最高の売り上げを記録した。今後は既存ブランドの成長に注力する」と強調した。
化粧品M&A市場で
「ロード」は異例の成功例に
M&A市場が冷え込む中、セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)の「レア ビューティ(RARE BEAUTY)」やキム・カーダシアン(Kim Kardashian)の専属メイクアップアーティストが手掛ける「メイクアップ バイ マリオ(MAKEUP BY MARIO)」、「コーサス(KOSAS)」「メリット(MERIT)」「ジェーン・アイルデール(JANE IREDALE)」など、多くの人気ブランドが買い手を見つけられずにいる。その中で、エルフ ビューティによる「ロード」の買収劇は、業界筋から過去最速の“ビリオンダラーディール(10億ドルの取引)”として注目を集めている。