マドリードにあるプラド美術館のひときわ壮麗な展示室に、2枚の大きなキャンバスが並んでいる。ティツィアーノが1550年頃に描いた「アダムとイヴ」と、その80年後にピーテル・パウル・ルーベンスが描いた同じ主題の絵である。いずれの作品も、乱れた髪で左側に座ったアダムが、ヘビのような生き物の潜む知恵の木から輝くリンゴを夢中な様子でもぎ取ろうとするイヴを止めようと腕を伸ばしている。
ふたつの作品は、全体のサイズ、人物の配置、色調までもが似ているので、一見すると見分けがつきにくい。しかし、よく観察すると、ルーベンスはティツィアーノの構図を巧みに変えていることがわかる。
ティツィアーノのアダムは後ろについた右手に重心をかけており、左手はイヴの胸に軽く触れているが、彼女を止める力はなさそうに見える。ルーベンスのアダムは体を力強く前に傾けて胴体をひねり、誘惑に眩んだイヴの視線をリンゴから逸らさせようと必死だ。ルーベンスはティツィアーノの作品を数多く模写したが、プラド美術館の館長ミゲル・ファロミール・ファウスは「アダムとイヴ」だけは原作を超えていると述べたこともある。
盗め、適応せよ、借用せよ
「究極的には、敬意の表れだと思います」。ファッションデザイナー