アジカン後藤から得た気づき「好きな人には好きって伝えなきゃ」
撮影=林直幸
――モノンクルの話もそうですけど、2010年代の半ば以降はジャズやファンクをルーツに持つ人たちがポップスに向かう流れがありましたよね。ここまでに出てきた名前で言うと、Suchmosもそうだし、King Gnuもそうだし、LAGHEADSもそうかもしれない。そういうシーンの流れや変化は、伊吹さんの視点ではどう見ていましたか?
伊吹:仲間が活躍していく姿にはいつも背中を押してもらっていました。やっぱり……Suchmosの存在はでかいですよね。HSUが誘ってくれて、初ライブを下北沢GARAGEに観に行きました。Srv.Vinci(現King Gnu)も下北沢の小さいライブハウスで見てたけど、どちらのバンドも最初から方向性が明確でクールで完成されていた。彼らが日本の音楽シーンのメインストリームで受け入れられていったあの様子はすごく気持ちよかったです。自分のことのように嬉しかった。LAGHEADSにフィーチャリングで参加してくれるアーティストのみんなも、元々その流れのなかにいる、今の音楽シーンにおいて重要なアーティスト達ですね。
撮影=Yuuki Oishi
――そういうシーンの流れがあったからこそ、それこそ沼澤さんじゃないですけど、プレイヤーが好むタイプの海外の音楽も吸収しつつ、ポップスの領域でサポートをして、そのなかで自分の色もちゃんと出せる人が求められる状況だったのかなと。
伊吹:彼らは僕ら世代でいちばん早くそういう存在になりましたよね。僕はすぐおふざけに走っちゃうので……バンド名も2秒でつけたようなのばっかりだし(笑)。演奏面では「こういう音楽だからこういうスタイルで演奏しなきゃ」というような考えはあまりなく、今もドラムが好きなただの音楽ファンという気持ち。好きなことを追いかけてきたら自分の色も育ってきたのかな、という感じです。
最近は好きなアーティストさんに対しても、お会いできると「めっちゃ好きです」などと軽率に言ってしまいます。レキシの池ちゃん(池田貴史)さんとか。でも、初めてフェスのバックヤードでGotch(後藤正文/ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんをお見かけしたときは緊張して「アジカン好きです!」って言えなくて。その日、the chef cooks meの下村亮介さんもいらっしゃって、Gotchさんプロデュースのアルバム『回転体』(2013年)が大好きだったので、僕が叩いてる曲が入ったCD-Rをシモリョーさんに渡して、それををきっかけにシェフのサポートをさせてもらうようになったんですけど。
その後シモリョーさんがGotchさんに「あの子、アジカンも好きって言ってましたよ」って伝えてくれて、「アジカン好きな若い子ってさ、なんで俺に直接言ってくれないんだろう」と漏らしていたみたいで(笑)。その後Gotchさんのサポートも数回やらせていただきました。Gotchさんの気持ち、今はすごくわかるんですよね。たまに「LAGHEADS聴いてます」とか、僕の演奏を聴いてくれているとわかるとすごく嬉しくて、好きでやってきたことが間違いじゃなかったのかなって。だから今は好きな人には好きって伝えなきゃと思っています。
――アジカンの名前が出ましたけど、2019年の『リズム&ドラム・マガジン』(リットーミュージック)のインタビューで伊吹さんが自身のルーツを挙げていて、スティーヴ・ジョーダン、クエストラヴ、クリス・デイヴ、ブライアン・ブレイドとかを挙げつつ、そこでDEERHOOFも挙げていたり、それこそアジカンもエルレもPOLYSICSも、あとは椎名林檎さんとかも挙げていて、すごく幅が広いなと思ったんですよ。ジャンル横断的なプレイをする人はもう珍しくないけど、ルーツを挙げるともう少し特定のジャンルに偏るか、洋邦のどちらかに偏る気がするけど、そうじゃないのが面白いなって。
伊吹:僕は周りのミュージシャンと比べても、日本の音楽カルチャー自体が好きなのかもしれないと思うことはあります。15歳の頃から部活サボって『ライジング』(『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』)でオールナイトしていたし、今もできるだけライブを観に行くようにしています。ドラマー目線だと、僕が勝手にバイブルと思っている角松さんと林檎さんの作品達の共通点は、ご本人達のアレンジメントのもと、たくさんのドラマーがレコーディングに参加してること。小学生の頃からクレジットを見るのが大好きだったので、「この曲はこの人が叩いてるんだ」「このドラマーさんはこのサウンドにマッチしてるな」とか。そうやっていろんなドラマーを知って、この世界に興味が湧いて、好きになっていったんですよね。
“人としてのあり方”にまで影響を与えたあいみょんチームへの参加
撮影=林直幸
――そうやっていろんな人のサポートをやられているなかで、どの現場/どのアーティストであっても共通して、「この部分は大事にしてる」みたいなことはありますか?
伊吹:「ジャストドラマーでいたい」っていう話をしましたけど、やっぱり自分はジャズドラマーでもロックドラマーでもないし、「このアーティストだからこう」っていう境目はあまりないようにしたい。たとえば、あいみょんを叩く日、挾間さんを叩く日、ずっと真夜中でいいのに。を叩く日、その3つがスケジュール的に連続になることはあるけど、そのときに意識を変えてできるほど器用じゃないから、逆にフラットな気持ちで臨んでるんですよ。何か変化があるとしたら、いろんなドラムセットや楽器を買うのが好きなので、「狭間さんのところはちょっと小さい口径のヴィンテージLudwigを使おう」とか、そうやって楽器のセレクトで自分のスイッチが入る状態を作っている部分はあるかもしれないけど。
――今はひとつのジャンルだけをやってるアーティストは逆に少ないというか、混ざっているのが前提だから、フラットな意識でやることが重要なのかもしれないですよね。
伊吹:そうですね。それこそあいみょんにもいろんな曲があって。ディレクターの方が音楽にめちゃくちゃ詳しくて、最初の頃は「伊吹くん、『愛を伝えたいだとか』はSly & The Family Stoneなんだよ」みたいなことを言われたりして(笑)。
――あいみょんは歌の力がすごいから、最終的には歌の力で持っていっちゃうけど、でもよく聴くといろんなジャンルだったり、いろんなサウンドが混ざってますよね。
伊吹:複雑なドラムパターンの曲も多いですからね。でも、やっぱりあいみょんは音楽的な刺激はもちろん、あの人自身が人として魅力的すぎる。自分はぼーっと生きてきたから、こんなに素晴らしい人と知り合えたことが自分の人生においてものすごく重要な出来事。そしてやっぱりそこに集まる人たちも素晴らしいんですよ。あいみょんチームは、自分の人としてのあり方にまで影響されていますね。
――あいみょんは先日台湾と韓国でのライブがありましたけど、伊吹さんご自身は海外での活動にも興味がありますか?
伊吹:それはあんまりないかも……。日本のごはんが好きすぎるので(笑)。もちろん行ったらめちゃめちゃ楽しくてまた来たいなと思います。この間もJazztronikでイギリスに行って、アビーロードも渡れて大興奮でした。でも、今の状況がすでにものすごく恵まれていると思っているので。もともと自分がファンだった人たちも含めて、好きな音楽家といっぱい共演できているし。だから“今後の展望”みたいなことも難しいんですけど……でもやっぱり、お客さんに踊ってもらえると嬉しいですね。そこはかなり大きな自信に繋がるかもしれない。
――それこそファンクは大きな要素ですもんね。
伊吹:そうですね。日本のお客さんはすごくじっくり聴いてくれてもちろんそれも嬉しいんですけど、あいみょんとかKIRINJIでアジアやほかの国に行ったら、向こうの人はみんな狂喜乱舞していて。めちゃくちゃ歌うし、踊るし、バラードのイントロでも大歓声だし。もちろんそのアーティストの曲があってこそですけど、自分の演奏で楽しんでもらったり、踊ってくれたりするのを見るとやっぱり嬉しいです。
――きっと今の日本の音楽シーンの状況からしても、今後は海外でライブをする機会もさらに増える気がするので、世界中の人を踊らせることができるかもしれないですね。
伊吹:そうなったらすごく嬉しいです。でも、本当に今がすでにめっちゃ楽しいんですよ。逆に言うと、これから先の人生がちょっと怖い(笑)。一生懸命頑張ります。今ご一緒してるみなさんとはずっとやりたいし、これからの新しい出会いもあったらいいなと思っています。
撮影=林直幸
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金子厚武
フリーランスのライター。1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。 主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』など。 『ポストロック・ディスク・ガイド』監修。FRIENSHIP.キュレーター。
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