相次ぐディレクターの退任、交代、そして新任ディレクターによるコレクション発表――今ファッション業界は大きな変換期の真っ只中にある。ブランドの一時代を築いたジョナサン・アンダーソンやデムナがこのシーズンをもってブランドを去り(ショー開催時はまだ明かされていなかったが)、デビュー間もない「クロエ」のシェミナ・カマリや「マックイーン」のショーン・マクギアーがその実力を誇示するコレクションを披露。中でも注目と称賛を集めたのが、サラ・バートンによる新星「ジバンシィ」だ。まさに“破壊と再生”を繰り広げるファッション界において特に重要視されるのが、時代やディレクターが変わろうとも、揺るがず変わることのないブランドのコア(核)。本格的なパラダイムシフトは来シーズンになるだろうが、メゾンのコードやレガシーを現代風に落とし込み、着る人の内面に優しく寄り添い鼓舞する本質的な服が目立った2025-26秋冬 パリ・ファッションウィークを、注目ブランドとともに紹介する。
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アンダーソンが「ロエベ」を去ることは数カ月前からうわさされていたが、「バレンシアガ」のデムナ退任のニュースは業界人にとっても寝耳に水だった。彼の「バレンシアガ」での最後の仕事は、7月上旬に発表予定のクチュールショーだが、プレタポルテのランウェイショーは今季がラスト。(6月に発表予定の2026年スプリング コレクションもデムナによるコレクションとなる) そんなコレクションは、誰もが見覚えのある“普通の服”であふれ返っていた。「普通」という、ファッションにおいて敬遠される言葉が、ここでは例外である。
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アンヴァリッド宮殿の中庭に現れた特設会場の中に迷路を造り上げ、各セクションを黒いカーテンで仕切ることで、まるで無限に続く通路があるかのような錯覚を演出した。薄暗いランウェイを、ミニマルな白いシャツとゆったりとしたパンツ姿のビジネスマンのようなモデルたちが、ブリーフケースとバラの花を手に、足早に歩き出した。画一的なユニフォームであるスーツが、破けた加工を施されたり、異なるシルエットとスタイリングで登場。服に“着られる”のではなく、着用者が服に個性を与えるというファッションの本質を示唆するようだった。
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力強い足取りで進むモデルは、ビジネスウェアからデイウェア、イヴニングウェアへと移り変わっていく。カシミヤコート、フード付きナイロンパファー、シアリングパーカ、そして「バレンシアガ」の今やおなじみのトレンチコートにはクチュールの技術を取り入れて、ボリューム感のあるフレアなシルエットでアウターがドレスのように昇華されていた。
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話題を呼んだ「プーマ」との協業には、マルチカラーのトラックスーツ、ふわふわのバスローブ、ダメージ加工の“スピードキャット”スニーカーなど、スペクタクルなアイテムを披露。デムナは、標準的なドレスコードを通して、「普通とは何か」を問いかけてくるよう。服そのものにはアイデンティティは宿っておらず、それを誰が着るのか、どのように着るのか、着用者の“個性”に焦点を当てるのが服だということを思い起こさせる。
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ロエベ(LOEWE)
Courtesy of Loewe//LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
3月上旬に行われた「ロエベ」のプレゼンテーションでは、クリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソンの退任は正式に発表されていなかったものの、コレクションは「さよなら」を告げるものだった。ランウェイショーという形ではなくとも、彼の約11年間の素晴らしい功績を凝縮したような、モード史に刻まれる最高のラストコレクション。その数週間後に退任が、さらに1カ月後に「ディオール」メンズ アーティスティック ディレクターに着任したことが公式発表され、数カ月にわたる臆測に終止符が打たれた。
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会場となったカール・ラガーフェルドのかつての邸宅は、「ロエベ」の芸術的伝統を継承する17のテーマ別でスペースごとに分けられ、美術館の展示のように披露された。歴史からの影響と先見性のある職人技を融合させた“アイデアのスクラップブック”を構想した今季は、トロンプルイユ、 ゆがんだ比率や量感といったブランドのコードやモチーフを、アートやクラフトを通して展開。
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“パズル”や“フラメンコ”、“アマソナ”といったアイコンバッグは、ヨゼフ&アニ・アルバース財団と協業し、カラーブロックのモチーフが配された新たな表情に変貌した。ジョセフ・アルバースやアニ・アルバースといったバウハウスの先駆者たちの色彩、フォルム、質感に対する独特のアプローチを取り入れて、触感あふれる絵画的な織物が構造的なコートやアクセサリーに取り入れられ、ブランドの継続的なアートとファッションの対話を強化している。
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ウェアは、鮮やかで縦長のシルエットであふれていた。レザーはスライスの切り目を入れたり巧みに継ぎ合わされ、ドレスにはドレープが施され、細長くなり、丸みを帯びたフォルムに彫刻されている。これら芸術的な作品が並ぶ没入型の空間には、ジジフォ・ポスワの陶器の花瓶、須田悦弘の彫刻作品“朝顔”、2022年秋冬シーズンのショー会場を飾ったアンシア・ハミルトンの”Giant Pumpkin No 2”など、「ロエベ アート コレクション」の多彩な作品もキュレーションされていた。
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それは、過去と現在が衝突し、アート、職人技、革新の間で進化してきた「ロエベ」を体現するもの。ファッションを超越して、文化的なメゾンへと飛躍させた立役者であるアンダーソンから、「ロエベ」新クリエイティブ ディレクター、ジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスへとバトンが渡された。このデザイナーデュオがブランドをどのように導いていくのか、楽しみに待ちたい。
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クロエ(CHLOÉ)
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一年前、絶大な支持と賛辞とともに「クロエ」での鮮烈なデビューを果たしたシェミナ・カマリ。 誰もが夢見る“クロエ・ウーマン”を復活させ、BOHOシックなスタイルを再びトレンドに押し上げた彼女の3回目のランウェイは、過去を尊重しながら未来へと前進するリアルな女性の姿そのものだった。
Stefania Danese/launchmetrics.com/spotlight
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「このコレクションに取り組み始めたとき、前進することと同じくらい過去を尊重することが重要だと感じました。(中略)直感的なレンズを通じて、伝統の痕跡や歴史の断片、かつて愛したものと今愛するものを融合させ、過去をいかにロマンティックに表現するかについて深く考察しました」とリリースで語ったシェミナ。その言葉を体現するかのように、インビテーションには刺しゅう入りのレースハンカチとヴィクトリアンハンドのチェーンアクセサリーが添えられ、ファーストルックにはヴィクトリア朝風のタフタジャケットが登場。貴族の女性のナイトガウンのようなエアリーなマキシドレスが、シアリングのアクセサリーとともにランウェイを軽やかに彩った。
Stefania Danese/launchmetrics.com/spotlight
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創業者ギャビー・アギョンが提唱したブルジョワ・ボヘミアン、そしてカール・ラガーフェルドが打ち出した享楽的な芸術性をモダンに再構築しつつ、今の時代の“クロエ・ウーマン”を提案したシェミナ。シルクシフォンのドレスやレースで縁取ったサテンキャミソール、ヒップハングのフレアボトムスといった得意のワードローブに、フィービー・ファイロによってかつてブームを巻き起こした“パディントン”バッグや、カール・ラガーフェルドがデザインしたチェーンベルトを合わせ、現在と過去をシームレスに融合させた。
Alessandro Viero
“パディントン”バッグには、Y2Kを彷彿させるシアリングチャームをコーディネート。
Alessandro Viero
常に変化や新鮮なものが求められるファッション業界において、ブレない軸を持ち続けることは勇気がいること。シェミナが大切にしている“柔らかな強さ”は、時代や世代を超越して女性たちの心を掴んでいる。
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マックイーン(McQUEEN)
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「私にとってダンディズムとは、究極の装飾行為であり、深く個人的で、遊び心があり、侵犯的である。 それは、個性やアイデンティティ、理想主義やジェンダーに対する疑問を投げかけるものです」とショーノートで語った、クリエイティブ・ディレクターのショーン・マクギアー。作家のオスカー・ワイルド、20世紀初頭に活躍したイギリス人舞台女優ヴェスタ・ティリー、そして20世紀初頭にアメリカで活躍した画家のロメイン・ブルックスといったジェンダーを超越したアイコンをインスピレーション源に、ダンディズムを独自の美学で描いた。
Courtesy of ALEXANDER MCQUEEN
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“ロンドンの夜”と銘打ったショーは、レースのハイカラーや、ウエストをシェイプし肩を誇張したダブルブレストジャケットといったヴィクトリアンムード満載の漆黒ルック群からスタート。中盤からは真紅のシアリングファー、シルクジョーゼットのティアードドレスに加え、オスカー・ワイルドが好んだヒマワリの花をメタリックジャカードにあしらったドレスが退廃的でドラマチックなムードを演出。スカルモチーフやハーネスディテール、チュールを編み込んだアランニット、ガラスや金糸を3D刺しゅうで縫い付けた絢爛(けんらん)豪華なミニドレスなど、ショーンのフィルターを通してリー・マックイーンのレガシーが随所にちりばめられていた。
Courtesy of ALEXANDER MCQUEEN
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2025年9月には、ニューヨークのオフ・ブロードウェイで舞台「ハウス・オブ・マックイーン」の初演が、そしてロサンゼルスではプロジェクションマッピングなどの技術を通じてアレキサンダー・マックイーン世界を体験できるインタラクティブな展覧会「Provocateur」が控えている。リーの功績に改めて脚光が当たるシーズン、ショーンのクリエイションにも注目が集まりそうだ。
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ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)
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Stella McCartney Winter 2025 Runway ShowWatch on
エキゾチックスキンに代わる素材を開発するイノベーション企業、「ステラ コープ」のオフィスを舞台にした「ステラ マッカートニー」のテーマは“Laptop to Lapdance”。昼は自分らしく仕事にまい進し、夜は自由な時間を謳歌する。ときには“レディボス”、ときには母、そして姉妹であり妻でもある――あらゆる顔を使い分ける現代女性のしなやかさを賞賛するように、パワフルなテーラードからハイテンションなパーティードレスまで、女性の一日を反映したワードローブがランウェイにそろった。
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業界におけるサステナビリティを牽引する彼女は、今シーズンも理念を追求。ランウェイで発表した洋服のうち96%が環境に配慮した素材を採用しており、100%クルエルティフリー素材で作られた。新たなヴィーガンスネークスキンが使用されたアウターや、リサイクルガラスビーズと世界初のヴィーガン由来のスパンコール「Sequinova」がほどこされたパーティードレスなど、目覚ましい進化を華やかな一着に落とし込む。
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パワーショルダーのテーラードや、ニットポロにミディ丈スカートを合わせたワークスタイルから、ボリュームニットを合わせたパワフルなデニムルック、流れるようなドレープづかいが印象的なミニドレスなど、女性のオンからオフを行き来するコレクションは、ステラ自身のクローゼットを彷彿させるよう。
Peter White//Getty Images
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2025年サマー ランウェイ ショーでデビューしたヴィーガン素材の新バッグ“ステラ ライダー”はさらにバリエーション豊富に、アイコニックな“ファラベラ”はふっくらとしたパテントやクラッシュベルベットなど、秋冬らしい質感が楽しい新作が登場。デイタイムからイブニングまで、マスキュリンとフェミニンを往来する自由なワードローブは、すべての瞬間を楽しみ、戦い抜く女性への最大の賛辞を強く表していた。
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アライア(ALAÏA)
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ALAÏA SUMMER FALL 25 COLLECTION BY PIETER MULIERWatch on
2025年“夏秋”コレクションというシーズンタイトルからも分かる通り、型破りな挑戦を続けている「アライア」。根底にあるのは、創業者アズディン・アライアが愛した、曲線と芸術で作られた彫刻的な世界。
Courtesy of ALAÏA//LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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コレクション全体を通して、伝統的な肖像画のように顔を縁取る、布製のチューブがモデルの頭を囲み、「アライア」の女性美をたたえるという時代を超えた美学を表現する。スカートは、目に見えない不可解な力で持ち上げられているかのように体の周りを漂って見える一方で、トップスはモデルの心臓の鼓動が見えるのではないかというほど、ぴったりとフィット。ルックが進むにつれて顔を囲むチューブは、ボリュームのある肩や大きな管状のディテールで装飾された複雑なかぎ針編みのベストへと移り変わっていく。
Courtesy of ALAÏA//LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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マスタードイエローから天空の青、深いバーガンディまで、色彩とともにシルエットが華やいだ。プリーツドレスとスカートが優雅な動きでランウェイを揺らめき、その下からはフリンジ付きのフラワーシューズが咲き乱れていた。色のはっきりしたコントラストが印象的で、決して重すぎたり、圧倒的すぎたりするものでもない。
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ピーター・ミュリエの独自のモダニティとメゾンに深く根付いたDNAの融合は、シーズンを重ねるごとに力を増している。創業者アライアが確立させた、大理石のように女性を彫刻する芸術としてのファッションは、時空を超えて現在の「アライア」にも確かに息づき、私たちを魅了し続ける。
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ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
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今季のハイライトの一つは、新クリエイティブ ディレクター、ジュリアン・クロスナーによる「ドリス ヴァン ノッテン」のデビューショーだった。彼はブリュッセルのラ・カンブル国立美術学校で学び、2016年の卒業時にファッションデザインの学士号と博士号を取得。2018年8月には「ドリス ヴァン ノッテン」に入社し、創業者ドリスとともにウィメンズコレクションのデザインと開発に携わってきた。
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他のブランドでは、クリエイティブ・リーダーシップの交代は往々にして芸術的な方向転換を意味するが、ここではそうではない。シグネチャーであるパターンとアバンギャルドな豪華さを、豊かで鮮やかな色彩で再解釈し、私たちに安心感を与えてくれた。
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“カーテンの向こう側”と題して、オペラ・ガルニエで繰り広げられる舞台裏のストーリーを描いた今回のショー。最初のルックは、演者たちが脱いだスニーカーの靴ひもを彷彿させるコードをステッチのようにあしらった、床まで届くウールのコート。構築的なアウターウェア、ガウンのようなケープ、薄暗い色合いのシルクのトップスが続いた。「ドリス ヴァン ノッテン」の特徴である大胆なパターンは落ち着いたストライプで抑えられ、洗練されたエキゾチックなレザーベルトがミニマルな仕立てを引き立てている。
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80年代のパワーショルダーも、20年代のフラッパードレスも、現代のレンズを通して見ることで陳腐さとは無縁である。重ね着したミニスカートがプリントのマッシュアップで登場し、クラスナーが過去を尊重しながら未来に目を向けていることも示唆する。
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ドレープは絶妙なバランスで表現され、多彩なパターンや素材と相まって、冒険的で大胆でありながら洗練された遊び心のあるエレガンスが醸し出されていた。それはつまり、「ドリス ヴァン ノッテン」の美学。コレクション終盤にあしらわれた際立つタッセルのディテールが、このコンセプトをさらに押し上げ、デビューコレクションとは思えないほどの完成度だった。「ドリス ヴァン ノッテン」がこれまでと変わらず、確固たる基盤を保ってくれるのは、不確実な時代において何より心強いことだ。
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ザ・ロウ(THE ROW)
Courtesy of The Row
ショーをゲストとともに分かち合う特別な体験にするため、スマートフォンでの撮影NGがもはや定番化した「ザ・ロウ」のショー。クラシックな邸宅を思わせるパリのショールームに絨毯を敷き、その上にソファや椅子が無造作に置かれ、ゲストは床に座ったり窓際に腰掛けたり、まるで友人の家に招かれたような親密な雰囲気でショーを堪能した。
ルックも同様、まるで自宅で過ごしているかのように靴を脱ぎ、ヘアも仕上げ途中のように無造作でノンシャラン。それでいて最高級の素材とディテールを施したルックをまとったモデルたちは、どんなきらびやかな服を着ているよりも自信に満ちた雰囲気を醸し出していた。
Courtesy of The Row
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テーラードの技が光るコートやジャケットに、カシミアタイツを肩からマフラーのように掛けたり、まるでボトムスをはき忘れたかのようなスタイリングに仕上げることで、最上級の抜け感を表現。また、カーディガンやセーターを幾重にも重ねたスタイリングの妙も際立っていた。ブランド哲学を反映したボリュームを強調した構築的なコートやひねりを効かせたイブニングウェアに続き、白シャツをアクセントにしたモノトーンのコートルックからは、ストイックを超越した先にある独特の色気や気品を感じることができた。
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サカイ(SACAI)
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sacai Autumn & Winter 2025 CollectionWatch on
昨年に設立25周年を迎えた「サカイ」の進化は止まらない。“One Tender Moment(優しい瞬間)”と題した今季はブランドのハイブリッドな魅力に、“包み込む”というジェスチャーを通じて、温かな感情さえも包括させた。
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そのテーマ通り、ジャケットやアウターのパーツを身体に巻き付けるデザインが特徴的。新たなシルエットの探究とともに、着用者が自由にスタイリングできる構造へとひねりを加えている。フォーファー、ニットウェア、フォーマルなスーツ素材など、本来は出合うことない異素材を巧みにドッキング。心地よく手触りの良い素材と、構造的で洗練された生地の組み合わせが、視覚的にも質感的にも絶妙なコントラストを生み出していた。
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ブランドロゴ入りのウォーターボトルやユーティリティバッグなどのアクセサリーが、アウトドアと都会的な要素を融合させ、現代的なライフスタイルを反映させていた。洗練されたデザインと意外性のあるエッジの効いたディテールは、印象的でありながら着やすいアイテムを提供するという、設立当初から揺るがぬ「サカイ」の哲学。従来の枠にとらわれず、ありきたりなものを全く新しくエキサイティングなものへと昇華させる、デザイナー阿部千登勢の才能を存分に発揮する内容となった。
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コム デ ギャルソン(COMME DES GARÇONS)
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COMME des GARÇONS Fall/Winter 2025 ShowWatch on
「コム デ ギャルソン」はコレクションを“Smaller Is Stronger(小さきものほど力強い)”と題し、ファッション業界の巨大化と商業主義に対抗するメッセージを投げかけた。独立性と創造性の価値を主張するのに、デザイナー川久保玲より説得力をもって語れる者はいない。半世紀以上もブランドを率いているだけでなく、ドーバー ストリート マーケットを通じて若く独立したデザイナーを支援してきた経緯もある。
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オペラ地区に位置する廃虚のショー会場には、白いランウェイと木製の椅子が配置されたシンプルなセットが組まれ、ブルガリアの民謡が響き渡る。ピンストライプ、チェック、グレーフランネルなど、英国の伝統的なスーツ生地を使用した作品で開幕。従来のビジネススーツの構造は完全に解体され、誇張されたり、ゆがんだり、時には重力に逆らうかのように再構築され、独立した彫刻作品のような様相だ。
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ルックが進むにつれて、硬質さを解きほぐすかのようにフェミニンな要素が支配し始める。繊細なカクテルドレスに異様なまでに強調されたクリノリン、カラーパレットも鮮やかなピンクや赤が衝突して、豪華さとボリュームに圧倒されつつも楽観的なムードを感じさせた。
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過剰よりも精密さ、大衆受けよりも独立性。このコレクションはファッション、そしてそれ以上に物事の本質を追求するような内容である。巨大企業が権威をふるう抑圧された世界でも、独創性、結束、喜びがあれば規範から解き放たれることも可能であると、希望を示してくれるようだった。
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マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)
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Mame Kurogouchi Fall Winter 2025 “Katachi”Watch on
“日常”は多くのデザイナーにとってここ数シーズンのクリエーションにおいて欠かせないキーワードとなっているが、「マメ クロゴウチ」のデザイナー、黒河内真衣子ほど繊細な感覚で日常を切り取る者はいない。食卓に並ぶ漆器、毎朝焼いて食べるお餅、川辺で拾ってきた小石。昨シーズンに続き“かたち”を追求する今季は、自然物の有機的なフォルムに加え、人の手によって生み出される伝統漆器の表情と、それらが内包するたおやかな質感をコレクションへと投影させた。
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コレクション全体に流れるのは、優しい曲線による詩的なリズム。布地を彫刻のように扱い、アシンメトリーな柔らかくも構築的なシルエット、繭のようなフォルムや包み込む襟元、ちょうちんを思わせるボリュームのあるスリーブを生み出した。それらは、まるで生き物のように有機的な膨らみをまとい、着用者を抱擁するよう。
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特に印象に残ったのは、ドレスのようなエレガントな存在感を放つダウンシリーズ。「お餅をかんだ時のような柔らかさと軽さを表現したかった」という新たな挑戦であるダウンでは、黒河内自身が紙を切り出してフォルムを成形し、立体構造を具現化できるよう職人とともに生地を開発した。
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「自分とって美しいと思える“かたち”は何か。自分が感じる心地良い“かたち”とは。そんな風に、昨シーズンと同じ“かたち”というテーマで、今季はよりパーソナルな感覚を大切にしながら、イメージを立体へと創造する過程に注力した」と語った黒河内デザイナー。伝統的な墨流しの技法によるパターンが布の表面に自然な流れを作り、花びらのような形状のイヤリングや丸みを帯びたバレエシューズ、カーブカットが特徴的な新作レザーバッグなど、自然と建築的な要素もシームレスに融合させた。
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繰り返しのように見える日々の中で、絶妙に移り変わる“かたち”。そこに美しさを見いだし、背後にある文化的な物語を静かに語りかけながら、すべての存在や事象は恒常的でなく絶えず変化する、この世の真理さえ説いているようであった。
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