さまざまな色、カット、形状がそろう「スワロフスキー」のクリスタル

1895年にオーストリアで創業したクリスタルメーカー 「スワロフスキー(SWAROVSKI)」は、今年130周年を迎えた。創業当時と同じくチロル地方のヴァッテンスに本社を構える同社は現在、年2回新しいカットや色、形が登場するクリスタルに加え、そのクリスタルを用いたジュエリーやアクセサリー、テキスタイル、シャンデリア、ホームデコレーション、そして自動車用の装飾パーツまでを製造。長年に渡り数々のデザイナーに愛されてきた輝くクリスタルは、ファッションの装飾表現に欠かせない存在になっている。今回は、そんな“光の魔術師“として世界に羽ばたいたスワロフスキーの本社を訪問。その軌跡と今を探る。

創業時から拠点はヴァッテンス
豊かな自然に囲まれた本社

ダニエル・スワロフスキー=スワロフスキー創業者

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今から130年前、「誰もが手にすることができるダイヤモンド」というビジョンを思い描いていた創業者のダニエル・スワロフスキー(Daniel Swarovski)は、クリスタルをより精細にカットする電動機械を開発して特許を所得。スワロフスキーを立ち上げた。故郷のボヘミア(現在のチェコ共和国)を離れたのは、クリスタルが有名なボヘミアには競合他社も多く、品質と生産量を両立できるクリスタル・カッティングのアイデアをコピーされてしまう懸念があったから。その点、農家が大半を占める小さな村だったヴァッテンスはボヘミアから十分な距離がある。そして、機械を動かすエネルギーになる豊かな水源と空き家になった工場があったこと、電車による輸送の便も決め手となったという。

そんなヴァッテンスに構える現在の本社は、2018年にリニューアルオープン。商品開発からマーケティングまで全部門が一つ屋根の下にあり、現在5世代目のオーナーとなるスワロフスキー一族とブランドのDNAを体現する場所になっている。また、社内のマヌファクトゥーア(MANUFAKTUR、ドイツ語で「製造」の意)には40〜50人の職人が在籍。広大なスペースに特殊な機械やコンピュータなどが並び、この場でさまざまなプロトタイプやサンプルからメットガラ(MET GALA)用のドレスまでを制作している。

「ヴァッテンス・エクスペリエンス」に展示されたアーカイブ

「ヴァッテンス・エクスペリエンス」に展示されたアーカイブ

ショールーム

ウィーン・オペラ座舞踏会で社交界デビューするデビュタントのために作られた2025年版のティアラ

「コペルニ」と共に制作したクリスタル製のバッグ

そして、「ヴァッテンス・エクスペリエンス」と名付けられたアーカイブ室とショールームには、ブランドの歴史を物語る作品の数々や、1956年以来ウィーン・オペラ座舞踏会のデビュタントのために毎年制作しているティアラ、多種多様なクリスタルやクリスタルメッシュのテキスタイルを展示。例えば、マドンナが着用した「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のイブニングドレスや大ぶりの四角いクリスタルを均等にあしらった「プラダ(PRADA)」のコートから、「コペルニ(COPERNI)」がディズニーランド・パリで開いた2025年春夏ショーで披露したクリスタル製のバッグ、「シュプリーム(SUPREME)」と「ヴァンズ(VANS)」とのトリプルコラボによるスニーカーまでがそろう。その内容からは、「スワロフスキー」クリスタルを生かしたクリエイションの幅広さが見て取れる。

クチュールや衣装からジュエリーまで
華やかさをもたらす輝き

2024年にミラノで開催した展覧会「スワロフスキー マスターズ オブ ライト」では、「バレンシアガ」や「ヴィヴィアン・ウエストウッド」「メアリー カトランズ」など、「スワロフスキー」クリスタルを駆使して作り上げられたコレクションルックを多数展示した

2024年にミラノで開催した展覧会「スワロフスキー マスターズ オブ ライト」では、「バレンシアガ」や「ヴィヴィアン・ウエストウッド」「メアリー カトランズ」など、「スワロフスキー」クリスタルを駆使して作り上げられたコレクションルックを多数展示した

「スワロフスキー」クリスタルを用いた「ミス ソヒ」の2025年春夏オートクチュール・コレクション

1970年代に製作されたクリスタルのフィギュリン

1920年代、「スワロフスキー」のクリスタルは、アメリカのジャズクラブの衣装からフランス・パリのクチュールメゾンが手掛けるドレスやジュエリーまでに使われるようになり、B to Bのビジネスで世界へと広がっていった。その品質の高さは、「シャネル(CHANEL)」や「ディオール(DIOR)」「スキャパレリ(SCHAPARELLI)」「ランバン(LANVIN)」など名だたるブランドが用いていたことからも分かる。そして、30年代からは映画や舞台の衣装制作を手掛けるアトリエからも重宝され、エンターテイメントの世界とも深いつながりを築いてきた。

今や世界に約2300の直営店と6600の販売拠点を構えている「スワロフスキー」だが、B to Cビジネスに乗り出したのは1970年代のことだった。最初はインスブルックで開催された冬季オリンピックの土産物として、シャンデリアに用いられるクリスタルを使ったネズミのフィギュリン(小さなオブジェ)を販売。その後ジュエリー製作もスタートし、80年代には初の直営店を開いた。

そして99年から約20年間は、「ダニエル スワロフスキー パリ」名義でラグジュアリーなジュエリーも提案。2008年には、ジュエリーやアクセサリー、ホームデコレーションの分野で究極のクリスタル表現を追求するコレクション「アトリエ スワロフスキー アトリエ」を始動し、19年までジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)や「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」のヴィクター・ホスティン(Viktor Horsting)とロルフ・スノラン(Rolf Snoeren)、クリストファー・ケイン(Christopher Kane)といった名だたるデザイナーとの協業によってエッジの効いたジュエリーを生み出してきた。

そして20年には、ジョバンナ・エンゲルバート(Giovanna Engelbert)=グローバル・クリエイティブ・ディレクターが就任した。以来、存在感あふれる大胆なデザインから繊細で華奢なスタイルまで、提案するジュエリーのバリエーションは拡大。自由な重ね付けを筆頭に、個性を表現するアイテムとして新たなブランドイメージを築いている。

「スワロフスキー」のテーマパークで
塩田千春のインスタレーション公開

スワロフスキー・クリスタル・ワールドの「不思議の部屋」に新たに加わった塩田千春による「結晶化するアイデンティティ」

草間彌生が手掛けた「悲しみのシャンデリア」

ジェームス・タレルが手掛けた「アンブラ」

595枚の鏡によりクリスタルの中にいるような感覚を与える「クリスタルドーム」

ポップスターのステージ衣装などが展示された「アート・オブ・パフォーマンス」

「スワロフスキー」は創業100周年を迎えた1995年、本社のすぐ横にテーマパーク、スワロフスキー・クリスタル・ワールドを開いた。その中心となる「不思議の部屋(Chamber of Wonder)」には、ブランドの軌跡を辿る作品や過去に制作されたビヨンセ(Beyonce)やレディー・ガガ(Lady Gaga)らポップスターの衣装の展示に加え、草間彌生からジェームズ・タレル(James Turrell)、マニッシュ・アローラ(Manish Arora)まで、さまざまなアーティストや建築家、デザイナーがそれぞれの視点でクリスタルを解釈して作り上げた数々の小部屋がある。定期的にそのラインアップは入れ替わるが、5月8日、ベルリンを拠点に活動する日本人アーティストの塩田千春による作品「結晶化するアイデンティティ(Crystallizing Identity)」が新たに公開された。塩田らしい赤の毛糸やロープに加え、作品に初めて「スワロフスキー」クリスタルを取り入れたインスタレーションは、他の空間と同様に個性が際立ち、没入感を楽しめるものになっている。

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