週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載中の『ウマ娘 シンデレラグレイ』(以下、『シンデレラグレイ』)がアニメ化され、毎週日曜16時30分~TBS系全国28局ネットにて分割2クールで放送中だ。
【写真】TVアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』OP主題歌「超える」を歌唱する[Alexandros]川上洋平と、オグリキャップ役の声優・高柳知葉、ベルノライト役の声優・瀬戸桃子
本作の第1クールOP主題歌は[Alexandros]の「超える」。このたび、ボーカル&ギターを務める川上洋平と、『シンデレラグレイ』オグリキャップ役の声優・高柳知葉とベルノライト役の声優・瀬戸桃子の鼎談が実現。その様子をお届けする。
――まず川上さんにご質問です。『ウマ娘 プリティーダービー』という作品をご存知でしたか?
川上洋平(以下、川上):もちろん名前は知ってはいましたし、楽曲はよく耳にしていました。ただ、しっかりと見たことはなかったし、当然ゲームをやったこともなかったんです。なので、オファーを頂く前までは、僕の人生とは無縁のものだろうと思っていたんです(笑)。これは大変申し訳ないんですけど、僕はまったくゲームやアニメといった分野は知らなくて、映画、音楽、猫が大好きなだけの人間なので。
――以前『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で「閃光」を制作したとき、同曲のインタビューで同じようなことを答えられていましたが、それはいまでも同じなんですね。
川上:同じですね。ですので、アニメのファンの方にいつか刺されるんじゃないかと思っているくらい緊張しました(笑)。ただ、お話をいただいたからには何かの縁だと思って向き合いましたし、原作の漫画も読ませていただきました。
(作品の中に)共感できる部分が見つかったときは自分の中ですごく「書きたい」と思うし、「歌いたい」「作りたい」と思うタイプなので、そうなってからは結構早く制作が進むことが多いです。
普段から絵や映像がすごく好きで、映像で見たときに“そのシーンの音”が浮かんでくることがあるんです。映像に寄り添いすぎるのではなく、自分の“なにか”を入れたいと思うところもあって、アニメソングを専門で歌われているアーティストの方とはちょっと違う、異端な感じになるのかなと思います。
――逆に、高柳さんと瀬戸さんから見た[Alexandros]はどんな存在ですか?
高柳知葉(以下、高柳):とてもパワフルな楽曲を歌われているイメージです。CMのタイアップや作品の主題歌を歌われているときも、キャッチーで耳に入ってくる印象があります。また、今回の「超える」もそうなんですが、川上さんの声の幅が広すぎて、「どこからどこまで声が出る方なんだろう?」ということを思っていました。お話されているのを聞いていると、普段の声は低めのトーンなんでしょうか?
川上:はい、そうですね。
高柳:サビというよりも楽曲全体として、「どうやって喉を使っているんだろう」と。高いところまでスコーンと声を出されているんです。 いろいろと楽曲を聞いていましたが、今日お会いして、改めて「すごい喉を持っている方だな」と思いました。
――とても声優さんらしい感想ですね(笑)。瀬戸さんはいかがでしょう?
瀬戸桃子(以下、瀬戸):小学校のときから聞いていたアーティストさんがまさか主題歌を担当されるなんて! という驚きが大きかったですね。どの楽曲にも[Alexandros]らしさがもちろんあるんですけど、どの楽曲もぜんぜん違う。いちリスナーとして面白くて飽きさせないバンドだなと、そんなことを常に感じてました。
――高柳さんと瀬戸さんはアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』本編をご覧になってどう感じられましたか?
高柳:いやもう本当に……「本当にアニメになったんだ……」みたいな喜びが、まずありました。
『ウマ娘』の公式生配信番組「ぱかライブTV」でアニメ化を発表した際にはすでにアフレコが始まっていて、まだ「本当はアニメにならないかもしれない、夢かもしれない」なんて思いながら収録していましたが、アニメ化を発表したとき、「あぁ、発表した。本当っぽいな」となって(笑)。
しばらく時間が経過して、実際に完成した映像を見たり、先行上映会が放送の1週間前にあったときに「作品って見ていただける方に届いて初めて完成するんだ」という気持ちに気付いたんです。
先行上映会に先立って資料を通して映像を見て、先行上映会当日はステージの裏で、テレビの初回放送はひとりで家で見て……それぞれいろいろな感情が込み上げてきて、泣いてしまいました。作品に携わるみなさんがどれだけ熱量を込めて制作してくださっているのかを現場でずっと感じていたので、それが美しい形で視聴者のみなさんに届いて良かったです。ただただうれしいですし、感慨深いですね。
瀬戸:私は高柳さんとはちょっと違うベクトルの感動が自分の中にあったなと。この作品のオーディションを受けたのがちょうど高校3年生の卒業の時期だったんです。
受けてみて「どうなるんだろう」と不安な気持ちもあって、卒業式の日に「受かりたーーい!!」と叫んだ記憶もあるんです。
――とんでもなく青春を感じさせるワンシーンですね。
瀬戸:叫べば叶う、言霊みたいなものを信じたくなったんです(笑)。結果、ベルノライトという役をいただき、そのまま収録時期まで過ごし、アフレコへと臨んだわけですが、私にとってこの18歳から20歳の時期がすごく長く感じました。
実際に収録している際には、お仕事として「しっかりと全うしなきゃ」という気持ちもありつつ、自分が『ウマ娘』作品に参加しているという実感が全然湧かなくて。実はギリギリになって「やっぱり瀬戸さん合わなかったんで……」みたいに言われて降板させられるんじゃないかと思って、実感が湧いてこなかったんですよね。
そんなときに、ともさん(高柳)から漫画の連載期間やアニメについて、あとは作品についてもいろいろと教えてもらっていて、キャストさんやスタッフさんの作品に対する愛情や強い気持ちを感じて、一気に意識が高まりました。
――オープニング映像が付いた「超える」を初めてご覧になったときの感想はいかがでしたか?
川上:本当に感動しました。お話をいただいて曲を作っていって、いろいろとバック&フォースして、映像化したものを見て……。「あ、こうなるんだな」という驚きもありつつ、自分が思い描いていた以上のものが出てきましたから。サビの意味だったり、僕がふわっと書いた部分をちょうどよく彩ってくれたり、感動しましたね。
制作するときは「自由に作ってください。映像はこちらで付けるので」と伝えられてはいて、「本当は怒られるんじゃないか?」「逆に大丈夫かな? すごくいろいろと言われるんじゃないか?」と思ったんですけど、何も言われなかった。逆に自分たちからも映像について「こうしてほしい」「こうなったらいいな」というのは一切言っていないのですが、ああいった形になって驚きました。
高柳:始まった瞬間、レース場の映像と音のマッチがすごくて。まさに鳥肌が立ちました。この曲に合わせて見たい景色が広がっていた、という感じで。
アフレコが終わったあとに、残ったキャスト陣で第1話の映像を見ようということで上映会があって、そこで初めて映像を見たんです。ただ、本編映像はその段階でほぼ出来上がっていたんですが、オープニングテーマとエンディングテーマの部分はまだ映像がついてない状態だったんです。なのでそれぞれがオープニング映像を想像して心の中で流れているという状態でして。
――まさに妄想が広がっていたんですね。
高柳:はい(笑)。なので「どんな映像ができるんだろう?」と楽しみにしていたんですが、そのときに楽曲から感じていたイマジネーションやインスピレーションが、考えていた以上に映像として表現されていて、まさに夢のようなオープニング映像だなとおもいました。
――瀬戸さんもご一緒に見られていたかと思いますが、どのように感じられましたか?
瀬戸:実は、(先述の)アフレコ後の第1話の上映会の始まるタイミングでたまたま席を外していて、その後も特に聞く機会がないままアニメの放送当日を迎えました。なので本当に視聴者のみなさんと同じタイミングで聞いたのが初めてだったんです。
実際にテレビでオープニングの映像を見たとき、[Alexandros]さんと作画スタッフさんが話し合いながら同時進行で作ったんじゃないかと思うくらい、しっかりマッチしていたと思いました。見ていて本当にゾクゾクさせられました。
――アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』では[Alexandros]が主題歌を務めるということになり、『ウマ娘』キャストの歌唱ではなく、アーティストがタイアップして担当するというのは、実は初めてのことになります。高柳さんはこの話を最初に聞いたとき、どのように受け止められましたか?
高柳:率直に言うとびっくりしました。ですが、少し考えてみて、「『シンデレラグレイ』ならそうだよね」と。これまで『シンデレラグレイ』を読んできたなら伝わるだろうな、という風に思いました。
『シンデレラグレイ』は原作漫画も含めて、『ウマ娘』の他コンテンツを通っていない、あまり知らない方にも楽しんでいただける作品で、そもそもオグリキャップ号という競走馬をご存知の方が“オグリキャップだから”というだけでこの作品を知っている・読んでいるというくらいの作品です。
『ウマ娘』にはさまざまなコンテンツや作品がある中でも、この作品はちょっと特殊な位置にいると思いますし、「青年誌・ヤングジャンプで連載している漫画がアニメ化した」という感覚のほうが強いかもしれないくらいで。
――なるほど。たしかにそう言われると納得するトレーナーの方も多そうです。
高柳:あと、これまでのアニメシリーズではオープニング曲のイントロは大抵ファンファーレが使われていたり、他の楽曲でも印象的に使われていることが多いんですけど、ただ、『シンデレラグレイ』のオープニングテーマのイントロにファンファーレって少し違和感があるような気がしていて。
――たしかにファンファーレのような、壮大さや華々しさとはちょっと違いますね。
高柳:なので[Alexandros]さんが制作されるとなったときは、「もう最高だな」と思いましたし、楽曲を聞いてすごく納得しました。
オープニングの映像も相まって、曲を聴いていると疾走感があって、馬がダートを駆けていくような感じがするんです。笠松競馬場のダートは、イベントで行った際に歩いたことがあるんですが、ふかふかしているんです。あの砂をものすごい勢いで蹴り出して、とてつもない速度で駆け抜けていく迫力、それに近いものを感じられる曲だなと思いました。
瀬戸:私はイントロのギターを聞いたときに「うわ、いい!」と純粋に思いました。あとは、なんというか暗さや現実感のようなものを感じたんです。
Bメロからサビに行くときにスッと落ちるところがめちゃくちゃ好きで。レースが始まる直前にゲートが閉まって、競馬場全体がシーンと静まる瞬間がありますが、そういった緊張感を含んだ暗さがあるなって感じたんです。
泥臭い努力やある種の人間臭さみたいなところも読み解ける歌詞もふくめて、すごく素敵だし、ぐっと刺さりましたね。
――川上さんはアニメ『シンデレラグレイ』の制作陣からオファーが届いてから楽曲制作がスタートしたかと思いますが、どのような流れで楽曲を制作していったんでしょうか?
川上:まずは原作の漫画を何回も読んで、スタジオに入る前にアコースティックギターでパーッと作っていったんです。最初にサビができて、AメロBメロと、と順につくって一旦は完成したんです。したんですが……割と地味な曲になっちゃいまして。先ほど瀬戸さんが「暗い曲」と話していましたが、暗さだけしかない曲になっちゃったんですよ。
瀬戸:え! そうだったんですか?
川上:まさにおっしゃっていただいたような「暗さ」がメインになっていたんです。そこで、一度暗くなったところから這い上がっていくような、なにか突き抜けたものが欲しいと感じて、自室にこもってサビの部分をもう一度作り直しました。
結果的には、AメロやBメロの部分は最初に作ったのとおなじで、サビだけまるっと変えて、コード進行は同じでメロディだけ変えた形にしました。最初に作った方は平坦なまま盛り上がることなくスッといくような感じで、個人的には嫌いではなかったんですけど、『シンデレラグレイ』には違うだろうと。
――イントロが印象的で、ロングトーンで少し落ち着いたギターソロから始まっていく形は、[Alexandros]の王道的なパターンでありつつ、久しぶりに聴いたとも感じました。あのイントロは川上さんのアイディアでしょうか? それとも別のメンバーから?
川上:あの部分は自分です。実はその部分も何個かアイディアを出して悩んでいたんですが、結果的にいまのバージョンがハマりましたね。
――歌詞の部分では、“自分の中の自分を超える”という内容をサビに置いて歌われている楽曲です。『シンデレラグレイ』では、オグリキャップが自分自身と向き合って、自分を超えていく、というような表現があると感じていて、 そこに繋がっていると思いました。この部分を歌詞に、それもサビの部分にしたのはどういう意図があったんでしょうか?
川上:オグリキャップがライバルと戦っているときに「自分が戦うべき相手」について答えを見つけ出すシーンがあって、その前後の部分も含めて、僕にとって一番共鳴できた部分だったんです。そのあと、サビでそういったニュアンスの歌詞をたまたま歌ったときに、「あ、ハマってるじゃん!」と感じて、そこからどんどん紐解いていきました。
オグリキャップは、それまでは「走れれば走っておこう」という受動的な部分が多かったと思うんですが、あのレースややり取りを繰り返すことで、「わたしの意思はこうなんだ」と気付いた。人間として見ると、戦う意味を見つける瞬間だと思うんです。
それは競走に勝つという意味だけじゃなく、なにか大切なものを守るところもあると思います。そういった“強い意志”を初めて認識した瞬間だと読めて、そこで自分の中で納得がいった。そこからはすごく書きやすかったですね。
――先ほど、サビの部分を作り直したとおっしゃってましたが、歌詞もそういった流れでフィックスしたんですね。
川上:はい。メロディーを作り直したあとの歌詞、サビの部分も含めて本当に考えていましたし、漫画も何度も何度も読み返しました。本当にあのときは『ウマ娘 シンデレラグレイ』を誰よりも読んでいたと思います。
――もうその時点で立派な『ウマ娘』のファンですよ!
川上:愛もすべて注ぎ込んで作りましたし、そうかもしれないですね(笑)。
草野虹