HATRA/15年の集大成がランウェイで瞬く
ハトラ 2025-26年秋冬コレクション
長見佳祐によるハトラ(HATRA)が、15年のキャリアの中で初のランウェイショーを開催した。設立当初は「部屋」をコンセプトとし、とりわけ東京のサブカルチャーと結びつきの強いブランドとみなされていたが、そのムードは次第に変容し、2021年秋冬シーズンからは「リミナル ウェア」を掲げている。リミナリティとは、人類学の用語で「ある状態から次の状態へ移行する『境界』」を指し、旅や祭のように社会のルールが一時的にゆるむような状況とも言い換えられる。
ショー会場には、これまでの集大成、あるいは未来へと続くターニングポイントを見届けようと東京のデザイナーや多様なジャンルのアーティスト、ファンなど多くの人々が集った。座席に置かれたフライヤーに、スタイリストやヘアメイク、プロデューサーだけでなく、フィッターやブランドスタッフの名前までもがひとりひとり律儀に記されていたことも印象的だ。
今シーズンのテーマは「WALKER」。着用者の動きによって絶え間なく変化し、さまざまなイメージが生まれては消え去っていくことを「瞬き」と呼び、揺れを意識した従来よりも軽やかなラインナップや、2025年春夏シーズン「WINKER」の流れを汲んだ「光の瞬き」を表現したようなグラフィックが目立つ。ファーストルックに登場したシアーローブには、生成AIを活用して作られた何かが溶け出したようなモチーフがプリントされた。ハトラは、AIを単なる効率化の手段としてではなく、一日に何千、何万回と生成を繰り返しながらそのプロセスを観察し、デザインへと昇華させていく。長見は、その過程を「旅」、ひいては連続する「瞬き」とみなし、AIとの対話を「宇宙人にアドバイスもらっている」感覚だと語る。
シグネチャーである6色の糸を編み合わせたグリッチ調のニットセーターやニットドレス、煌めくアーガイルのモチーフをはじめ、今までに築き上げてきたアイデアを用い、コレクションを漸進的に進化させた。また、折り重なる立体のプリーツパンツやダイヤ型のディテールを有するテイラードジャケットなど、すべてのモデリングに3Dシミュレーションソフトウェア「CLO」を使用。手作業で行うよりもはるかに多くのトライアンドエラーを経ることで、特異なパターンから成る新たなデザインの可能性を見出している。
