人気アイドルグループの一員として活躍していた長濱ねるさん。実は、アイドル時代も人前で話すことが苦手だったそうです。そんな長濱さんが、いま力を入れているのが「書く」仕事だといいます。「就活で自分の“素“を出せない」と悩んでいる学生たちへ、長濱さんから送られたエールとは?

俳優・タレントに加え 執筆活動も

学生

長濱さんはアイドルの時の印象が強かったのですが、今はいろいろな仕事をされていると聞きました。

映像作品でのお芝居やラジオのナビゲーターなど、俳優やタレントとしてのお仕事をしていますが、執筆活動もしていて2023年9月にはエッセイ本も出させていただきました。

長濱ねるさん

色んなお仕事をしていく中で、お芝居一本、書くこと一本というような意識もなく、興味があることを素直に挑戦しています。

長濱ねる(ながはま ・ねる)

1998年長崎県生まれ。幼少期は五島列島で過ごす。2015年にアイドルグループ「欅坂46」のメンバーとしてデビュー。2019年に同グループを卒業後は、五島列島が舞台となった2022年の連続テレビ小説『舞いあがれ!』に出演するなど俳優として活動。また雑誌での連載やエッセイ執筆などに取り組む。NHK・SDGsキャンペーン「未来へ17アクション」PR大使も務める。

学生
藤原

SDGsのPR大使もされていて、SNSで『長濱ねるのSDGs日記』を読みましたが、どの記事も自分の言葉できちんと語られている印象でした。

SDGsに関するワードはとっつきにくいものも多いので、分かりやすく噛み砕いて広めていきたいという思いがあります。

自分のことや実体験を交えて書くようにしたり、自分が分からないと思うことは分からないとしっかり書いたりすることを意識しています。

正直に自分の言葉で書くことで、読み手にまっすぐ伝わればいいなと思っています。

長濱さんがニュース記事についての感想を書く『長濱ねるのSDGs日記』

※2024年3月末でキャンペーンは終了しました

人前でしゃべるのが苦手 素を出せるのが「書く」仕事だった

なぜ執筆の仕事を始めたのですか?

みんなの前に出るお仕事をしていたけれど、実は、もともと人前でしゃべることは苦手でした。

しゃべりながら、自分で何を言っているのかわからなくなることが多くて。大勢の前でアクションすることが苦手です。

表現活動自体が嫌いなのかなと思っていた時期もありましたが、アイドルとして活動する中で「ブログを書くこと」は好きでした。


Eテレのイベント「スゴEフェス」の生放送の合間にお話を聞きました

もともと読書も好きでした。書くことはあらかじめ考えてから言葉にできるので、自分に合っているんだと思いました。

やっぱり表現活動が好きだと気づいて。グループを卒業後、自発的に文章を書くお仕事がしたいと申し出ました。

今はどんなお仕事も楽しいです。その中で、より自分が素直な気持ちで取り組めるのは、書くお仕事かなと思っています。

執筆の仕事を始めて、良かったなと思うことはありますか?

周りにどう思われるのかを意識する気持ちが強く、人前で話すときは自分の「素」を出せないでいました。

だけど、書くときは文章をきちんと練ってから出すので、わりと「素」を出しやすく、こういうところに怒っている・悲しいとか、この間のラジオでこう言ったけれどあれは違ったとか、そういったことまで書けるようになりました。

すると、表に立っている時にうまく思いを伝えきれなくても、書く文章で伝えることができるので、すごく気持ちが楽になりました。

文章での印象と、表で見る姿にちょっとギャップがあると言われることも多いのですが、私としてはそんなに「素」が伝わっていなかったのか、文章を書く場所があってよかった、と感じています。


連続テレビ小説『舞い上がれ!』にて お芝居は自分ではない誰かの内側を表現すること その仕事も大事にしている

執筆活動と俳優としての仕事は、だいぶ違うようにも思えますが?

執筆によって自分の素直な気持ちを表現できたり、整理されたりしますが、かといってそっちだけになってもだめだと思っていて。

執筆が他の表現活動につながるし、お芝居が執筆につながることもあって、どっちもできることで心のバランスが取れるので、今はどちらにも決めきらないことを自分のテーマとしています。

「誰も傷つけたくない」をやめて見えたこと

書く仕事をする時に、悩んだり大変だったりすることはありますか?

先ほどもお話ししたとおり、どう人に見られているか、こう思われてしまうのではないか、というのが気になりすぎて、書くことも怖い時期がありました。

この文章を書くと”この人が傷つくかも”、”嫌な気持ちにさせてしまうかも”など、いろんなことを考えてしまっていました。

そんなときに、作家の西加奈子さんから「全員を傷つけないような文章は無理」とおっしゃっていただいて。

「誰も傷つけないようにしたい」なんて傲慢(ごうまん)だったなと気づきました。

それからはふんぎりをつけ、自分にウソなく素直に書いていくこと、誰かは傷つくかもしれないけれど、1人でも2人でも誰かに寄り添えたらいいなと思えるようになりました。

自分の素直な気持ちを書いて「共感しました」と言ってもらえたら何より嬉しいし、その人が一瞬でも何かを頑張ろうと思えたり、仕事が楽になったり、ふふっと笑える瞬間があれば、それだけで幸せだなと思います。

読む人に“こんなメッセージを伝えたい”と思って書いているということですか?

いえ、逆にそこは「どう受けとってもいいですよ」というふうに書きたいなと思っていて、むしろ余白を作り、読み手に委ねることを意識しています。

「影響を与えてやろう!」という方がおこがましいというか。自分のできる範囲でやって、もしよかったら読んでほしいというスタンスです。

投げっぱなしのような気はしますが、そのスタイルでいいのかなと思っています。

期待しすぎないことで「素」の自分が怖くなくなった

「人によく見られたい」と思う気持ちは、学生もみんなあると思います。それで自分を偽りながら就活したりとか…。

私も10代の頃は「自分はもっとできる人間だ」と思っていたので、できなかった時に周りからどう評価されるのかが気になり、すごく落ち込んでいました。

でも、「自分はそこまですごい人間じゃない」ということを受け入れたら、素直にラクにいられるようになった気がします。

きっかけのひとつは22歳のときに、作家の本谷有希子さんに相談したことです。

「人からどう見られているか気になる、自意識が強すぎてつらい」という話をしたら、「自分のことをひたすら考え尽くしたら、自分にいずれ飽きる。そしたらすごく楽になるよ」とおっしゃっていただいて。

それで自分の悩みやダメなところとも、正面から向き合ってみようと。エッセイにも意識的に自分の思っていることをどんどん書くようにしました。

そんなことを繰り返しているうちに、コンプレックスもなんとなく受け入れられるようになったというか、いい意味で自分に期待しなくなりました。

できない自分・自然な自分も許容して、人にも見せられるようになってきました。「素」を出したときに何か言われることが、怖くなくなった気がします。

就活でも、自分の「素」が出せないまま面接を受けて、内定をもらってしまって、どうしよう…という声もたくさん聞きます。

でも「素」を出さずにその会社にきちんと合わせられるのも、ある種の才能だと思います! 「素」がうまく出せる人はそれが強みですし、もし出せなくても会社に合わせることができれば、それはそれで強みです。

人それぞれが自分の強みで戦えることは、すごく素敵なことだと思いました。

いまの一言でみんな救われると思います…!

あはは(笑)。「素」を出せずに後々しんどくなるなら素を出したほうがいいけれど、それぞれが自分の生きやすいように、自分のやれる範囲でやれたらいいと思います。

自分にとって大切なものを考えながら、やりたいことを

最後に、就活生にメッセージをいただきたいです。

就活だと、今から入る会社にずっと勤めるんだ!と身構えてしまうこともあると思います。でも今は柔軟な世の中になってきているし、そこまで1つの選択肢にこだわらなくてもいいのかなと。

今の自分が全てではないから、10年後に転職するかもですし、ともすれば1年後に転職するでもいいし、でも何十年も続いたらそれもいいし。

お仕事だけではなくて、副業や趣味でも好きなことはできますし。

いろんな選択肢を持って、広い視野で考えていけたら素敵だと思います。

そう考えると、少し楽になります。

私は同時にさまざまなお仕事をさせていただけているので、いろんなことを同時に挑戦していいと思っているし、自分にもこのスタイルが合っていると思っています。

もちろん、挑戦して失敗もしたし、悩んだり落ち込んだりもしました。

直感でやりたいことを決め一生懸命やっていく、というのを続けてきた感じなのですが、いろいろ試してみたことはやっぱりよかったのかなと思います。

そのときどきの直感を大事にするのもいいのですね。

自分の美意識というか、何に一番重きを置くかは人それぞれだと思うので。

キャリアアップにすごく重きを置くならそれもいいし、心豊かに暮らしたいというところに重きを置くなら、いっそ就活を1年2年遅らせてでも、やりたいことをやってから社会に出るのもアリなのではと思います。

いろんなものに触れ、いろんな人と話して、自分の好きなもの・得意なものを見つけ大切に育てていけたら、豊かな人生になるのではないでしょうか。

ありがとうございました。


※2024年3月末でキャンペーンは終了しました

(『スゴEフェス2023 生放送スペシャル!』2023年11月25日に放送)

 

撮影・編集:脇本彩香

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